こんにちは。
南こうせつ「うちのお父さん」の歌詞「にっこり笑う にっこり笑う」の部分を「リンゴリバラン リンゴリバラン」という呪文であると成人まで勘違いしていたケムコ社員Nです。
あ、既に①で明かした通りケムコは社名ではないんですが、分かりやすさ的にこの表記でいこうと思います。話は戻りますが、聞き間違えの多い耳を持っているとビジネスではとても苦労しますね。
たくさんの人の声を聞きあつめる必要のあるディレクターなどは言うにおよばずです。ああ苦しいつなげ方。
【ゲーム制作における一般的な職種一覧】
☑プランナー(企画)
□ディレクター(監督)
□プログラマー(制作)
□ライター(作文)
□グラフィッカー(作画)
□コンポーザー(作曲)
□ボイスキャスト(声優)
□デバッガー
□マーケター
先日お伝えした通り、今回はプランナーと毎度血みどろの大ゲンカを繰り広げる役ことディレクターのお仕事をお伝えします。ただ正直言うと、ちょっと困っています。
ディレクターって何だ
いきなりですが
ゲーム業界におけるディレクターという職種には明確な定義がありません。
いや、あるのかもしれませんが多分現場レベルでは様々な扱いや見解があり、会社ごとに担当業務が違ったりして、もう何が何やら・・・。
どうやら今回も業種の紹介だけでかなりの文量になってしまいそうです。
まず、博学なる読者の皆さまには、既にこの語に対するイメージがあると思いますので、まずはそういった先入観からすりあわせていきましょう。
- 先入観A「テレビ番組のディレクター」
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テレビ番組が楽屋ネタや制作スタッフ描写をフィーチャーするようになって久しいですが、さまざまな番組で「ディレクター」は芸能人さんに企画説明をしたり、
アポなしっぽい構成の番組で現地交渉を行ったりといった下りで登場します。
色々大変そうなAD(アシスタントディレクター)の上役であることも併せて、そこそこ偉い人だというのは何となく肌で感じるところです。
ただ、ディレクターの中にもチーフディレクターだのフロアディレクターだの色々あって良く分からないですね。
- 先入観B「映画やゲームにおけるディレクター」
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こっちの世界ではディレクターが何をやっているのかほとんど知られてないと思いますが、「ディレクターズカット」「ディレクターズエディション」なんて言葉はよく言われます。
なんとなく「放映分ではカットされたシーンを追加」とか「新要素を追加」みたいなものが期待されるとおもわれますが、じゃあそういう期待を生み出すディレクターとは何なんでしょうか。実はみんなよく知らないのでは。
まず、全ての業界においておよそ共通すると思われる定義をひとつします。
ディレクターとは、「監督」です。
定義といっても何のひねりもなく、directorを辞書で引けば「監督」と出てきますが、皆様は「監督」といわれて何を想像しますか?
まず挙がるのはサッカーや野球の監督、次点で黒澤明監督や宮崎駿監督といった超大物の映画・映像の監督でしょう。
強烈な個性を有して唯一無二のチームや作品を作り出す、ラスボス感ただよう「監督」に対し、
良く分からないがモブモンスターっぽさ満点の「ディレクター」はイマイチつながらないのではないでしょうか。
実は、名だたる大監督・名監督だって「ディレクター」の一種には違いありません。規模や功績に差があるだけで、世のディレクターの仕事は大きく分けて2つに大別されるといえます。
1.方向性(ディレクション)を決める
ディレクターは、自分の仕事をどのように遂行するかを決めます。もちろん上役(プロデューサーなど。後述)やスポンサーから既に方向性は示されていることが多いでしょう。
「この女優をプッシュしろ」とか「このスタッフと協力して成果を出せ」とか「この試合日程のこの辺で何とか踏ん張れ」とか。
しかし、実際になにかの仕事を行うと、大雑把な大方針だけでは到底決めきれない細かい問題が沢山出てきます。そういった場合に権限を発揮するのがディレクター。
彼らは与えられた指示は重々理解したうえで、それに反さず、その上で良いものを作れるよう・・・もっと言うなら完成物に矛盾が出たり散漫な仕上がりになったりしないように、
広く深い視点でプロジェクトを監督し、現場に指示を出します。
演奏指揮者や映画監督がまさにこの立ち位置で、彼らは「お話を作る」「設定を作る」「演奏する」「作画する」「演技する」といった「実際に手を動かす人」の立場になくても、
「全体の方向性を作る」という、最終的な成果物にきわめて大きな影響を与える大事な役割を担います。
2.チームの指揮管理(ディレクション)を行う
実をいえば1と表裏一体ではあるのですが、ディレクターの本分は人を使うことです。1人だけで業務を遂行している場合、ふつうディレクターとは呼ばれません。
スポーツも音楽も映画もアニメもゲームも、基本的には1人以上の「実際に手を動かす人」がいなければ成り立ちません。規模が大きくなればなるほどスタッフは増えます。それは1の「方向性」について、
各個人がいろいろな考えを持つために散漫化していくというリスクを増やすだけでなく、
ごく単純に、全員の名前を覚えて全員のスケジュールを管理し全員の意見をまとめ全員に効率のよい仕事をさせるという、
非常に膨大な管理職としての業務を発生させます。
工事現場の監督などは分かりやすいでしょう。彼らは工期内に作業を終わらせるため、適切な資材と人員を手配して業務に投入し、現場におけるトラブルや課題をクリアしながら、
さらにチーム内のコミュニケーションも円滑に保たねばなりません。
以上を踏まえれば、「監督」も「ディレクター」も同じようなもので、規模感が様々異なる多種多様な「ディレクター」が世の中に沢山いることが分かると思います。
大きな制作現場では「音響」「照明」「舞台」「美術」など様々な分野ごとにディレクター(監督)を任命してそれぞれにチームを形成させ、
「総監督」が包括的な総帥権をふるうという場合もありますが、これだって根っこは同じです。
軍隊においては「少尉」とか「大佐」とかいった様々な階級の「将校」がいますが、「将校」を「ディレクター」に置き換えればしっくりくるかと思います。
階級が違えば指揮する部隊の規模も変わってきますが、本質的な仕事は指揮を執ることだということです。
IT系の方には、プロジェクトマネージャー(PM)のことだといえば容易にご想像いただけるかもしれません。案件(プロジェクト)における責任者かつ指揮者かつ監督者という点で両者はイコールです。
芸術系のディレクターと違って、感性や主義主張をディレクションに反映させることはあまりないかもしれませんが、プロジェクト途上で発生する様々なトラブルを自分なりの方法で解決していく必要があるという点で、
やはり同じような能力が要求されるお仕事といえるでしょう。
ゲームディレクター ~その地味なのにクソ重い看板~
ここまで書いて、おそらく賢明な読者の皆さまは既にお分かりでしょうが、例えば合コンで
「俺ってディレクターなんだ」などと言われたところで凄いかどうかの判断はできません。
何人の人を使っていくら稼ぎ出すディレクターなのか分からないわけですから。
それでも
「テレビ番組のディレクター」などと言われれば、少なくとも幾多のライバルを蹴落として自分の番組を放映決定させ、何人もの人を使ってそれを成し遂げた、それなりに凄い人だろう、
とおよその判断はできます。お金もそれなりに持っているでしょう。合コンでは媚びを売っておいて損はありません。
しかし、ゲームディレクターとなるとそうはいきません。
■ひとにぎりのゲームディレクターの例
- 大会社に務め、100人規模の制作陣による超大作の総監督!
- ○○のことはこの人に任せろ! 独自の感性や技法でもって他人に作れないものを作りだす才覚のかたまり! 担当作品多数!
■その他大勢のゲームディレクターの例
- 100人規模の人員が関わる超大作……におけるフィールドグラフィック部門(ただし素材はシリーズ作品の3Dモデル使い回し)を担当したよ
- 利用者がそんなにいない端末むけに簡単なトランプゲームを作る仕事をプログラマと2人のチームで担当したよ
- これまで担当した作品はみんなプロジェクトが破綻したからまだ実績がないよ
- お金も時間ももらえなかったので業務時間外にプランナーやライターも兼任しつつ人のツテで素材集めてなんとか作品のテイにしてゲーム作ったよ
このように、仕事の規模や、どこまで「自分がかかわった・作り上げた」と評せるものがあるかは、場合によって千差万別であるため、ディレクターというだけで才能やお給料を推測できるものではありません。
合コンでは要注意といえるでしょう。
ただ、自分からディレクターを名乗るような人間は
そこそこプライドの高い性格だと思われるため、業務について色々聞きだすことで
実はショボかった実績の核心をついてしまうと、
キレたり落ち込んだりするかもしれません。無難な対応方法としては
「それはさぞかし大変なお仕事でしょうね、色んな人に気を遣わなきゃならなくて」
みたいな苦労をねぎらう方針にするとよいでしょう。
実のところゲームディレクターは、
実績や規模に関わらずとても大変な仕事です。彼らに下命された業務は、往々にして普通の業種よりも問題発生率が高めです。
業界が狭くクローズドで、なおかつ創造性(しばしば効率性と相反する要素)が要求される仕事であるがゆえに、前提条件として非合理的な仕事方法や風変わりな職人たち、
半ば非現実的とさえいえる制作スケジュールや予算を与えられ、それでなんとか回せと言われるのですから。
その上で、
作品が世に出るかどうか、成功するかどうかの責任をほぼダイレクトに負わされるのがゲームディレクターです。
たとえ規模が小さくて実績が地味でも、それを必要とした人がいて、それでお金を得たならば立派な仕事。すごいです。尊敬します。
と、こういう感じで理解を示しつつ優しくしてあげれば、日ごろから多大な心労で弱っているであろうゲームディレクターはコロッと落ちるでしょう。
ええと何の話でしたっけ。ゲーム業界合コン講座?
ケムコのディレクター
さて、ようやくウチの(そして筆者の)話ですが、ゲームパブリッシャーであるケムコにおいては
ゲーム部門とはすなわちディレクターチームのことであると言ってしまっても過言ではありません。
ケムコにはディレクター専業のスタッフと、他の業務をしながらたまにヘルプ等でディレクターを担当するスタッフの両方がいます。しかし他の業種はほとんどいません。
とりもなおさずケムコは
パブリッシャー(出版者)でありデベロッパー(開発者)ではありません。もうお分かりでしょうか。
ケムコのディレクターの業務とは、
デベロッパー、つまり外部の開発会社さんに委託したゲーム制作業務を監督することに他なりません。
弊社における”ディレクター”が何をするか、流れにそって見てみましょう。
- 偉い人と制作会社さんの間で、「新しい作品を作りましょう」みたいな話がまとまる。同時に、担当者としてディレクターが任命される。
-
ディレクターと制作会社側の担当者さんの間で打ち合わせ。
先方の担当者さんはプランナー(前回参照)という肩書の事が多いが、
プランナーを別に置いてご本人はディレクターだったり、業務内容はプランナーでも名義はディレクターだったり、プログラマーさんが担当者さんだったりと、これも色々。
弊社側からは「前作のこの部分は改善の余地があるからこうしましょう」とか「今はこういう要素が人気だから取り入れましょう」といった大まかな方向性の提示(ディレクション)を行う。
完全に制作会社さん主導で作ってもらうこともある。
-
先方のプランナーさんから企画書が上がってくる。検討し、問題点があれば指摘・修正願い・差し戻し等を行う。
ここでどれだけ穴のない(かつ柔軟性のある)企画ができるかが最終的な仕事のしやすさに大きく関わる。
十分にいけそうな目途が立ったら制作開始となる。
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制作が進むと、”α版”や”β版”などと呼ばれる試作バージョンのゲームが送られてくる。ゲームソフトウェアはインターネット経由で受け渡しを行うが、
ファミコン時代のなごりで弊社では「ロム(ROM、家庭用ゲーム機のROMカセットに由来)」などと呼ばれる(筆者はその時代を知りませんが、ネットがない時代はたぶん宅配とかでやりとりしてたんだろうな・・・)。
ディレクターは早い段階でロムの内容に触れ、企画書どおり魅力的なものになっているか、なっていないとしたらどういう措置を行うべきかなどを考える。
というか大体なにかしら「コレ企画と違わね?」とか「企画書だと良かったけどコレ駄目じゃね?」的な問題は発生する。そこで先方のプランナーさんやスタッフ各位と相談して何とか解決を試みる。
-
意見の衝突が発生する。
先方は今のままがいいって言ってるとか、前回そこに苦情がなかったからやらなくていいんじゃないかとか。
そこでまた検討する。やっぱりまずいんじゃないだろうか。懸念を強めに伝える。既に制作スケジュールはギリギリ。
プランナー 「インターフェイスはこれで良いって仰ってませんでしたっけ」
ディレクター「ただ実際に触ってみるとやはり使いにくさが目立ちまして」
プランナー 「じゃあ代わりにコレとコレやめるしかないですね!」
ディレクター「あああ勘弁してください、それ超大事な要素じゃないですかああ」
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すったもんだのあげくいちおう
妥協点解決方法は見つかる(というか見つけないと企画が倒れるので見つかったことにする。最適解かどうかは話が別)
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ついに全要素が実装されたが、ゲームソフトは完成していない。不具合・トラブル・実装ミス・・・すなわちバグがまだゲーム内に山のように残っている。
なのでディレクターはデバッガーチーム(今後のシリーズで詳しく解説)を組織し、デバッグ(バグ取り作業)を開始する。
-
ディレクターもデバッグに参加する(進捗確認のためや、いちデバッガーとして、ゲーム制作に慣れた者の観点からバグをたくさん見つけるため)。
デバッガーは主にパートタイマーさんやアルバイトさんなので入る時間数が決まっている。そのため、バグが多くデバッグ期間内に終わりそうになければ、ディレクターが頑張って穴を埋める。
ディレクター「全部クリアできたか! なんとか間に合いそうだね!」
デバッガー 「戦闘バランス未調整っぽかったんで全部スキップしましたけど」
ディレクター「いや現状でいちおう完成版ってことになってるけど」
デバッガー 「 」
ディレクター「 」
デバッガー 「・・・お疲れ様でーす」
-
ディレクターはさらに発売準備もする。
例えば発売する場所(最近は主にGoogle PlayやApp Storeなどのスマホ向けオンラインマーケット。
ゲーム機用には、ニンテンドーeShopなども)ごとに製品のアイコンや紹介画像なんかを、それぞれ特定のサイズや容量にて用意しなきゃならない。
他にも、商品の説明文やキャッチコピー、ケムコ側で出している紹介WEBサイトの内容、プロモーションビデオ(PV)の内容などについても考え、デザイナーチームに発注する。
なにしろここまで、その作品について熟知しているといえるケムコ社員は、担当者であるディレクターだけだ。
ゆえに、作品の内容、魅力、かならずお客様に理解させたいところ、悟られたくない弱点などを熟知したうえで、デザイナーさんがトンチンカンなものを作ってしまうことを防がねばならない。
デザイナー 「このキャラ可愛かったから全ページで大々的に取り上げてみたよ!」
ディレクター「・・・言ってませんでしたっけ、こいつラスボスの鎧の中身で、正体は最後に明かされるんですけど・・・」
デザイナー 「 」
※ケムコは基本ダウンロード販売オンリーだが、パッケージソフトを売る場合もっともっと沢山の準備が必要となる(はず)。多分ディレクター1人では対応しきれないくらいに。
-
本当に終わるのだろうかという不安感から「俺、この仕事が終わったら結婚するんだ」などと死亡フラグを立てて何か大事件が起き発売日が延びないかな等と期待をするが何も起きないうえに結婚相手もいない。
-
多忙さのあまり一日の記憶が一切ないといった●ング●リムゾン現象を体験する。
-
発売日。燃え尽きたよ、真っ白にな。
えー、一般的な例を出すつもりが
”実話”を出してしまいました。
何とかなるもんですね。ええ
見ての通り、ケムコのディレクター業務は、作品の方向性に対するディレクションもさることながら、主に
現場でクリエイティブな作業をしている開発会社さんを支援するため、
創作に集中していると忘れがちな時間管理や諸手続きを代行することに主眼が置かれているといえるでしょう。
ゲームとしての魅力をプランナーさんが担い、それを確実に完成させるためにディレクターが尽くす、といった構図です。
そのために必要な能力はやはり多岐にわたります。プランナーの時にも言いましたが、プロジェクトを完遂に導くために必要なスケジュール感や作業量の見積もり、
総じて現実性・計画性と呼べる感性や経験は必須となります。
それに加え、プロジェクト全体・スタッフ全員を幅広く見渡せる
視野の広さ、早急に問題を発見して対処できる
そつのなさ、
遠方の開発会社さんと効率的に連絡をとりあうための
メール作成技術や電話技術、人脈、人望、謝罪技術・・・
要は普通に
中間管理職としてのスキルが必要になるのです。そう考えると、きっと大変さをお分かり頂けるかと思います。
なお、さっきご紹介した”実話”における端々の会話からお分かりかと思いますが、ちょっとしたコミュニケーション不全が数時間ぶんの作業工数損失をよび、
それによってプロジェクトは少しずつ、しかし確実に危機へと追いつめられていきます。
そうならないように誠心誠意つくすわけですが、近年どんどんゲームの内容は複雑化・多彩化をとげていて、それらを成功に導く役であるディレクターの責任と仕事量(そしてミスを侵す可能性)も増加する一方です。
それでも、ディレクターはがんばるのです。ゲーム制作は戦場とおなじ。
現場では戦っている人がいて、かれらは絶対に指揮官を必要としているからです。
そして、監督者としての能力を精一杯ふるって、作品の調和性を増したり、品質を上げたりすることに成功すれば、ディレクターもまた、
制作者としての喜びを得ることができる。立派な、そしてとても大事な、制作チームの一員と言えるでしょう。
今回のまとめ
- ディレクターは制作現場にて、現場スタッフの仕事や作品の方向性を監督する。
- 現場で発生したトラブルの解決方法を考え、実行する。様々な雑用も請け負う。
- ケムコはディレクター集団
- 合コンで優しくされたい
次回、ついに”ゲーム制作の花形”というか、ゲームを作るといえば誰もが思い浮かべるであろう業種、”プログラマー”を扱います。
同時に
”ゲームプログラムというモノは一体どうやってできているのか”みたいなことも紹介できたらいいな・・・と思っています。
文字や数字のカタマリを、楽しいゲームへと変える魔術とは!?
次回のコラムもぜひお楽しみに。
※面白かったらぜひkeitai-info@kemco.jpあたりにご一報ください。
【03回 了】