ド素人のRPG制作現場潜入レポ

~⑧キャラに魂を吹き込む!? 声優さんのお仕事~

こんにちは。ケムコ社員Nです。
3月です。期末です。皆様やりのこしたことはありませんか?筆者には山積みとなっておりこのままでは業務がヤバイ。 いざとなったらこのコラムを書いていたせいにして全バックレを決行しますので、その際は皆様証言をお願いいたします。

【ゲーム制作における一般的な職種一覧】

☑プランナー(企画)
☑ディレクター(監督)
☑プログラマー(制作)
☑ライター(作文)
☑グラフィッカー(作画)
☑コンポーザー(作曲)
□ボイスキャスト(声優)
□デバッガー
□マーケター

今回はボイスキャストさんを扱いますが、 他とそろえるためにカタカナにしたもののやはり声優さんと呼ぶ方が自然かつ通り良いと思いますので、声優という呼称で進めようと思います。

しかし今回ばかりは困りました。
何が困ったって声優業界はゲーム業界とは結構隔絶してるってとこです。
がんばってはみますが、おそらく声優というよりはボイスデータ制作まわりのアラカルト話になると思います。ご容赦ください。

声優とは

上述したように筆者は詳しくないですので、いつも偉そうに定義から始める本コラムですが今回はあえて声優さんとは何ぞや的なことを語らないでおきます。
声優業界はとても広く成長し、そこに属する声優さんも、得意分野や実力など様々な面で多種多様です。
ただ一つ言えるのは、声を生業とし、声を鍛えあげ、声ひとつで食べていくことを目指す彼ら彼女らは、敬意に値する声の芸術家・・・あるいは職人であるということです。

業界間の関係

基本的にゲームデベロッパーやパブリッシャーが独自に声優を雇っていることは極めてまれだと思われます。 声優さんを使わず開発スタッフでアテレコをするという大胆な会社さんもありましたが、そうそうありません。 やはり訓練不足のシロウト、クオリティが確保できませんからね。声のいい広報担当者さんがラジオやら動画やらに登場するうちに人気者になり、ドラマCDにゲスト声優として出演するみたいなケースはあるようです。 憧れますね。ウチでもやらないものでしょうか。 それはいいとして、一般的にはやはりボイスが必要なときは声優業界に頼るわけです。
が、ゲーム業界にいれば声優に詳しくなるというものでもありません。筆者はある程度仕事の仕方等は学びましたが、むしろ声優さんが好きで自分で情報を集めまくっておられる声優マニアさんのほうがよほど詳しいと思われます。 ちなみにケムコに声優に詳しいディレクターは筆者含めあまりいません。 いま現場で働いているゲーム制作陣は基本的にガラケーゲームアプリ制作時代に入ったスタッフだったことも大きいのでしょう。ガラケーアプリは当初ボイスを入れることなど考えられない低容量でしたからね。
スマホ時代に突入しコンテンツに声が入ることも珍しくなくなってきた現在、声優に詳しくない我々は普通に困っているのですが、それはまた後述するとして・・・

ゲーム業界で「声が欲しい」となったとき、どうやって声優業界にお願いしていくのか、という点から見ていきましょう。

方法A.スタジオ業者さんに全部頼む

ケムコでボイスを入れるときはまず、お世話になっているスタジオ業者さんに連絡をとります。
スタジオとはボイスの録音、調整、データ化といった一連の編集作業を行うための設備を備えた施設で、前回⑦で紹介したようなスキルに長けたサウンド系の技術者さんのみならず、 サウンドディレクターまたは音響監督と呼ばれる方々が勤めておられます。
かれらは音声収録の依頼を受け付け、依頼通りの音声データを用意してくれるボイス制作のプロ。 サウンドディレクターさんはそれぞれ声優さんや声優事務所さんに強固なパイプを持っており、さらに依頼内容によって「こういうキャラならこの人が適任だろう」という人選を行ってくれます。
ゲーム会社側が「この声優さんを使いたい」といったリクエストにも可能な範囲で答えてくれます。 そして声優さんをブッキングし、収録を行い、データ納品をしてくれます。ゲーム会社はスタジオ側と連絡をとるだけでデータを手にできるので、とても助かります。
いわば「お任せコース」といえるでしょう。

B.ゲーム会社側で個別にブッキングする

Aが「お任せコース」ならばBは「こだわりコース」でしょうか。
声優、技術者、ディレクター、設備。ボイス収録に必要なこれら4つのうち一部または全部を、スタジオ任せではなくゲーム会社側でブッキングしていきます。
これを行うのは、よほど起用したいスタッフにこだわりがあり、サウンドディレクターさんのコネクションによらないキャスティングを行う場合や、 契約をすべて自社中心に一元化したい場合、仲介コストを下げたい場合などが考えられます。しかしコスト抑制に関しては、まるごとお任せしたほうがまとめて安くしてもらえることも考えられるので、一概には言えません。
ボイス制作には多くの人が関わるため、スケジュール調整はとても大変です。ぶっちゃけゲームディレクターが制作と並行して行うにはかなりヘビーです。 大手のゲーム企業で、内部にスタジオがありサウンドディレクターがいるような場合でなければ、なかなか厳しいと言えるでしょう。


主にこの2種です。
これを見て「音声収録ってそんな大げさなものか?」と考えられた方はおられるでしょうか。
声優業界に詳しい方ならずとも「声を撮ること」の難しさを想像できる方はおられるかもしれませんが、最近は高性能なマイクや音声編集ソフトをとても安価に手に入れることができますので、 「ちょっと声がいい人を呼んでパソコンの前に座らせれば何とかなるんじゃね?」と思ってしまうかもしれません。
というか筆者はちょっとだけそう思ってました
いや、もちろん、いいものを作るのにいい設備が必要なのは当然と考えていましたが、そこそこのものはご家庭の設備で作れちゃうんじゃないかと思ってたのですね。

実際はとんでもないです。
「声を創る」ということがどれだけ難しいか。ひさびさに実体験を交えて紹介していきましょう。

ド素人がボイスデータを作るとどうなるか

筆者はとあるゲームのPVを作ったことがあります。当時ディレクションを担当していた作品で、造りがチープであることがある意味ウリのような作品だったため、まあ素人が作っても味があってよろしかろうと。 そんなわけで作ったこともないのに動画編集ソフトとともに四苦八苦して作りました。数年にわたりYoutubeで公開され恥をさらしてきましたが、ゲームの配信終了にともない今は公開停止となっています。 オーケー。黒歴史隠滅完了。
それはともかく、PVには無謀にも自力でナレーションを入れていたのですが、その時に直面したトラブルは以下のような感じです。

①音が悪い

主な問題はオーディオレコーディングに最適化されていない安物PCを使ったためノイズが入ることです。 音というのは前回⑦でお話しした通り空気の振動であり、空気振動を電気信号に変換するのがマイクという装置なわけです。 マイクから送られてきた電気信号をPCに取り込んでデジタル化するわけですが、デジタル化するまえの電気信号はケーブルや回路を通過するときに周辺の電波だ磁気だの影響をうけまくるのですね。 結果パリパリパリとか、ブブブブブブとか、シャーーーーとかいったバックグラウンドノイズが入り込み、どれだけ低減しても完全に消すことは困難でした・・・。
録音時のノイズ軽減を勘案してPCを組むと、たぶん結構なお金がかかると思います。
小さな声だとノイズに紛れますが、大きな声だと音が割れます。マイクの性能もさることながら、機材やソフトの音量設定を最適に合わせるにもそれなりの知識が要るようで、筆者にはまったくそれがありませんでした。
さらに音響を勘案した部屋で録っていないため、ヘンに音が反響したりします。自室で一人で各種操作をしながら録音していれば、マウスのボタンクリック音や呼吸や悪態がガンガンノイズとして入ってきます。

②容量がとんでもない

PCが際限なく大容量化しているとはいえ音声データは未だにビッグサイズです。家庭用PCで作業を行うには、録っては消し、録っては消しという繰り返しになり大変効率が悪いです。 スタジオでは専用設備のもと数時間録りっぱなしということも可能ですし、できたデータをサクサク編集する体制も整っているようです。

③声が安定しない

上記2つは主に設備や技術面の問題ですが、こちらは声優およびディレクションに関わる問題です。
筆者がつくったPVでは、ゲーム内容を紹介するナレーション用セリフをコマ切れにして録音していったのですが、録り直すたびに声の感じが変わります。 普段素人がどれだけ何も考えずに声を発しているか、一方で声優さんがどれだけ「安定して同じ声を出す」ために血のにじむ鍛錬をされているか、思い知ることとなりました。
結局は何度も何度も録り直しをすることになりましたが、ずっと繰り返していると何がいいのかどう喋るのがいいのか分からなくなってくるのですね。 やはり録音は第三者の客観的な監督のもと行わないと安定しないということも身にしみました。


逆を返せば、こういった問題が許容できるならセリフCVご家庭アテレコは不可能ではないですから、趣味の同人活動として楽しむぶんには全く問題ないでしょう。
しかしお客さんに見せるレベルのものを作るのは結構難しく、「そこそこ」レベルのものでも作るにはかなりの経験や投資が必要です。 我々が日ごろ耳にする、テレビやスマホやPCから流れてくるボイスデータはみんな、発声のプロと音響のプロの共同作業の結果生まれているのですね。
プロすごいです。だから例の動画を記憶している関係者各位は速やかに忘却してください頼むから

ゲーム音声豆知識

声優さんが担当するものは何もゲームばかりではなく、音声吹き替えやアニメのアテレコ、ナレーション、司会など色々あるわけです。それらと比べてゲーム音声の収録はどう違うのか。
いくつか特徴的な部分を見てみましょう。

・「ワード」単位で費用が変わる
ゲーム音声というのは基本的には効果音(SE)の一種であり、1つのセリフごとに別データファイルに記録されています。
このデータ単位のセリフひとつひとつをワードと呼び、1ワード2ワード・・・という風に数えるのですが、ボイス制作費用は基本的にワード数が増えれば増えるほど高くなります。 それはまあそんなもんだろうと思われるかもしれませんが、1ワードはひとまとまりであればどれだけの長さでも関係ないというのが特徴的です。例えば、

「王様! 魔王の軍勢は幾百万、このままでは我らがシュトルムウントドルング帝国正規軍といえど早晩瓦解するのは自明でございます! かくなる上は禁断の秘儀により鬼神を呼び出し加護を得るしかないかと愚考する次第であります!」
「そうだな」


この大臣と王様のセリフはどっちも1ワードです。
では、次に、

「王様! 魔王の軍勢は幾百万、このままでは我らがシュトルムウントドルング帝国正規軍といえど早晩瓦解するのは自明でございます!」
「そうだな」
「かくなる上は禁断の秘儀により鬼神を呼び出し加護を得るしかないかと愚考する次第であります!」


台本がこうなっていた場合、大臣のセリフは2ワードです。
まったく同じ文量でも連続しているか区切っているかでワード数が変わり、必然費用も変わってくるというのは妙に思うかもしれませんが、 データ個数が増えればそれだけ名前付けや音響調整の手間も増えることになりますし、ゲーム音声は場合により数百数千のデータを作ることになるため、慣例上ある程度どんぶり勘定できるように、 文字換算ではなくセリフ数換算にしてあるのだと思います。
この慣例を逆手にとって、一部のセリフをすごい長ゼリフとして1ワードに押し込んでワード数を削減し、費用を節約するという裏技もあったようです (むろん、全データを1つながりでいいから1ワード料金でやれみたいな無茶は通りません)。
またワード数は費用を決定する一因に過ぎず、声優さんのネームバリューに応じた単価や声優さんの交通費、スタジオ及びスタッフの時間拘束に対するコストなど、費用総額を左右する様々な要因があることはご承知ください。
・セリフはキャラクター別で一気にまとめて録る
アニメのレコーディングで、声優さんが一堂に会して映像を見ながら声を当てている。そんな光景をテレビ特集などで見たことがあるかもしれませんが、ゲームではあまりそれがされることはありません。
アニメは映像に合わせて喋りますからタイミングが大事ですし、キャラ同士のセリフが重なったりすることもあります。 だからそのシーンに登場する全員で録る必要性は多々生じますが、ゲームの場合は基本的に「あるキャラクターがセリフを発し、次に別のキャラクターがセリフを発し・・・」と順番に進行するのが普通です。 戦闘時のボイスなどでも、あるキャラクターの攻撃時に掛け声が発生する等の使い方になるため、複数の声優さんが一堂に会している必要はないわけです。
そうなると、全員集めて録るのは無駄が多いわけです。ある声優さんが喋っている間、他の声優さんは緊張しながら待っているだけですからね。 担当キャラクターのセリフを抜きだした台本を延々と読み上げていくのが効率的なのは自明でしょう。
ただ、互いのセリフを聞きながら進められるわけではないので、キャラ同士のテンポのよい掛け合いなどを再現するのはそれなりに難しく、台本の注釈や、サウンドディレクターの采配に左右されることとなります。
・結構変なタイミングで録ることもある
映像作品の音声であれば、音声は映像についてくるものですから、基本的に映像ができてから音声を当てることになります。
しかしゲームの場合、とりもなおさず音声はデータのうちの一種類でしかなく、グラフィックやシナリオテキスト動揺にプログラマーが組みこんで完成となるわけですので、 基本的にゲーム制作期間の中に作ることになるわけです。
ここまではまぁ分かっていただける範囲かと思いますが、開発期間が超タイトだったりすると、キャラクターの性格や設定が十分でなくイメージイラスト1枚しかない状態で収録に臨むようなケースもあります。
そんなバカな、とお思いかもしれませんが、戦闘用の掛け声だけであれば、メインシナリオが全くの未着手であっても、「とう!」とか「えい!」とかいったものは録れてしまいますからね。
こういったケースでは、音声データが先行したことで、その声の感じに合わせてシナリオが調整されるという逆転現象も、起きるとか起きないとか。

ちなみに

筆者も声優さんに憧れている部分があります(だから嬉々としてPV制作などしたわけです)が、ゲーム業界で実際に声優さんにお会いし、収録に臨んだことで一気にすくみあがってしまいました。
一瞬垣間見ただけですが、声優さんの世界は緊張感に満ちていますし、芸能界特有の厳しい上下関係や不文律も存在するようです。
プレッシャーに弱い筆者はきっと一度ミスると連続してNGを出し、ボコボコにどやされ、一瞬で心が折れて再起不能になるに違いありません。おそろしや。
最近は声優志望の方がたくさんおられるようですが、厳しい世界だぞ、それでもやるなら頑張れよ、と心の中で激励したい気持ちになります。
それに比べるとライターはどれだけ楽なのでしょうか。ちょっとしばしば不眠不休が避けられないくらいのものです。いまこのコラムを書きながら日曜日があと5分くらいで終わりそうですが、それでも声優さんに比べれば、ねえ。

今回のまとめ

  • ゲームの音声データには「声優」「技術者」「サウンドディレクター」「スタジオ」の4要素が重要となる
  • ケムコではスタジオ側に一括で依頼することが多い
  • プロの技術なくして良い音声データなし
  • あと2分で日曜日が終わる
次回はついにゲーム制作における最後の段階、デバッグと、それに携わるスタッフであるデバッガーさんの話になります。 このとてつもなく地味で、長時間を要し、一歩間違えば泥沼地獄のような制作工程は、実はケムコのゲーム制作の中核ともいえ、 さらに本来は研ぎ澄まされた想像力、論理性、経験を要する職人芸でもあります。 バグ修正とはトラブルシューティングでもありますので当然様々なトラブル、ハプニングも発生します。好きでしょハプニングトーク。面白いのが書けるようがんばりますので、お楽しみに。

※本コラムへのご感想、または「あの『ペーパーなんとか』の声よかったよ!」といった黒歴史攻撃はkeitai-info@kemco.jpへどうぞ。

【08回 了】



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