中村健二氏アンジェロ・ゾラ賞受賞/IBA世界大会

達磨 信
達磨 信

IBAからのサプライズ

ゾラ賞受賞の中村氏

ゾラ賞受賞の中村氏

前回記事
で「ワールド カクテル チャンピオンシップス 東京2016」において、日本代表の坪倉健児氏が大会最高賞である「ワールド・バーテンダー・オブ・ザ・イヤー」の栄誉に輝いたことをお伝えした。
実はもうひとつ、この大会で日本のバー業界にとって大きな名誉といえる賞の授与がおこなわれている。
それは銀座の名店、バー『絵里香』のオーナーバーテンダーで、現NBA(日本バーテンダー協会)特別国際顧問を務めていらっしゃる中村健二氏にIBA(インターナショナル・バーテンダー・アソシエーション)から贈られた「国際アンジェロ・ゾラ賞」である。
「国際アンジェロ・ゾラ賞」(以下ゾラ賞)はIBA加盟国会員として任務を果たすだけでなく、IBAに多大な貢献をし、傑出した人間的魅力を持ったバーテンダーだけに贈られる極めて特別な賞であり、バーテンダーにとってこれ以上の名誉ある賞はないと断言できるほどの輝かしいものだ。

ロン・ブスマンIBA会長から祝福される中村氏

ロン・ブスマンIBA会長から祝福される中村氏

IBAの創設は1951年。イタリアのアンジェロ・ゾラ氏はその設立に尽力されたひとりであり、2度にわたりIBA会長を務めた人物である。1977年に亡くなられているが、ご遺族によりゾラ氏のメモリアルとしてIBAに賞を設けられたものだ。よってIBAだけでなくゾラ家の承認がなければ贈呈されることはない。とても厳格な賞としても知られている。
第1回ゾラ賞は1978年。初回受賞者はなんと日本人バーテンダーだった。故澤井慶明(さわいよしあき/銀座『ST.SAWAIオリオンズ』/2006年逝去・享年72)氏。1960年代からひとり海外へと渡り国際カクテル大会に出場し、また後にIBA副会長を18年間務め、アジアの国々のIBA加盟に尽力した大功労者である。

62年ものバーテンダー人生

右から岸NBA会長、坪倉氏、酒向NBA副会長、中村氏、坪倉夫人

右から岸NBA会長、坪倉氏、酒向NBA副会長、中村氏、坪倉夫人

その澤井氏の受賞から38年後、再び日本人バーテンダーの受賞となった。
中村健二氏は今年80歳になられた。26年間もIBAの世界大会に出席され、IBA会長や理事はもちろん加盟国の幹部と交友を深め、日本のバーテンダーと世界との交流の橋渡し役を担ってこられた。生前の澤井氏と活動するとともに、日本のバーテンダーの優秀さや日本のバー文化の豊かさを世界に伝えつづけてこられた。今回の受賞はその功績を評価されたものである。
「まったく知らされていなかったので、ほんとうに驚きました。こんなサプライズがあるなんて。わたしは、世界のバーテンダーの友人たちと交流を深めながら、日本のバーテンダー、次世代を担う若い人たちがIBAの仲間と良好な関係を保てるよう、そして少しでも世界の飲料文化に貢献できるようにと願っているだけなんです。ただ、ただ、感謝。その言葉しかありません」
後日、中村氏は謙虚にこう語られた。
1954年に銀座でバーテンダーの第一歩を踏み出し、1968年に『絵里香』を開業。バーテンダー人生は62年にもおよぶ。サントリー・トロピカル・カクテル・コンクールの優勝作品『マルルウ』をはじめ創作カクテルの名品は数多い。カクテルブックも出版されている。(銀座『絵里香』中村健二のジャパニーズの記事も参照いただきたい)
「お客様との出会いと笑顔を喜びに、これまでやってまいりました。何年やりつづけても到達点というものはありません。これからも同じ気持ちで歩んでまいります」(中村氏/後日談)
坪倉氏の活躍とともに、日本のバーテンダー史に輝かしい1ページが描かれた。世界にあらためて日本の優秀さを伝えただけでなく、バーテンダー人生を歩みはじめる若い世代にも希望、誇りとなる受賞であった。バー業界の人材育成にとっても刺激になり、プロフェッショナルとして真摯に謙虚に仕事に打ち込むことの大切さを中村氏は教えてくれている。(撮影/川田雅宏)

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