■鑑賞のポイント
平安末から鎌倉初期にかけて腕を振るった仏師の運慶(1150ごろ~1223)は写実性を重んじたといわれる。天才仏師が求めた「リアル」とは何だったのか。主な出展作品から探る。
■衣や髪の流れ 静かな仏にも動感
運慶の最初の作という奈良・円成寺の国宝「大日如来坐像」(1176年)は、体に巻きつく布や耳にかかる髪の流れが美しい。この布も髪も、体や耳を丁寧に造形した上に別の材でつくったものをかぶせてある。
像を模刻した彫刻家の藤曲隆哉(ふじまがりたかや)さんは「見えない体や耳も造ることで、初めて破綻(はたん)のない彫刻になると考えたのでは」とみる。
神奈川・浄楽寺の国重要文化財「阿弥陀如来坐像」(1189年)も「流れ」が目を引く。組んだ両足を覆う衣のひだが、急流のようにうねる。「運慶仏には、足まで彫り刻んだような、深い衣文(えもん)のものもある。形式化した平安時代の仏像との決別を宣言するようだ」と、東京国立博物館の浅見龍介・企画課長は舌を巻く。運慶は静かな仏にも動感を与えたかったのだろうか。