■鑑賞のポイント
平安末から鎌倉初期にかけて腕を振るった仏師の運慶(1150ごろ~1223)は写実性を重んじたといわれる。天才仏師が求めた「リアル」とは何だったのか。主な出展作品から探る。
■筋肉の表現 尻とふくらはぎ、力士のよう
運慶とともに工房を支えたのは5人の子どもたち。うち三男の康弁(こうべん)は筋肉の表現にリアルを求めた。代表作が、筋骨隆々の力持ち、興福寺の国宝「龍燈鬼(りゅうとうき)立像」(1215年)だ。
ウェートトレーニングに詳しい東京大学の石井直方教授は「相手を倒したり、ねじ伏せたりする能力にたけた力士の体を、仏師が見ながら造ったと思う」と話す。
石井教授が驚くのは、龍燈鬼の尻とふくらはぎ。「尻は大臀(だいでん)筋の内側の中臀(ちゅうでん)筋、ふくらはぎは表面の腓腹(ひふく)筋の内側にあるヒラメ筋が発達している。生身の人間とか、持ち上げにくいものを持ち上げることでついた、すごい筋肉です」
そんなところまで写し取った康弁は、父のリアルな表現を受け継いだ。英才教育が施されたのだろうか。