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竜とそばかすの姫(C)2021スタジオ地図

 「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」(2000年)、「サマーウォーズ」(09年)と、インターネット上の仮想空間を描く作品をほぼ10年ごとに手がけてきたアニメーション監督、細田守。新作で、三度同じ題材に挑んだ。現実とネット世界を交錯させ紡ぐのは、監督が敬愛する「美女と野獣」を基にした、魂の救済の物語だ。

 高知に住む17歳の鈴(声・中村佳穂)は、内気な高校生。大好きな歌も、歌う楽しさを教えてくれた母を事故で失い、歌えなくなった。親友に誘われアクセスしたのが、50億人以上が集うネット上の仮想世界<U>。そこは、生体情報から生成される分身<As>として生きる場所。鈴は、自分とは正反対の華やかなAsに戸惑いつつ、「ベル」(こちらも声は中村)=写真=と名づける。

 自縛から解き放たれたように声を響かせるベル。SNSで拡散された歌声は評判を呼び、人気の歌姫に。そこへ、「竜」(声・佐藤健)が現れる。誰彼構わず攻撃する嫌われ者だが、背中に傷のある姿が、ベルは気になって仕方ない。

 性別も年齢も、国籍も不明な竜。なぜ、敵意をむき出しにするのか。謎をはらみ、ストーリーは進む。だが、まずは、冒頭からスクリーンいっぱいにドーンと登場する、<U>の構造美に圧倒されてほしい。

 壮麗で複雑な空間は、まるでデジタルアート。その中を縫うようにカメラは動き、伸びやかに浮遊するベルや、無数のAsを捉える。細田監督が過去2作で試みた、仮想世界を可視化する映像表現。本作で、そのスケールは新たな次元にたどり着いた感がある。

 鍵となったのは、多彩な才能とのコラボレーションだろう。<U>をデザインしたのは、英国の新進建築家。ベルのキャラクターデザインは、ディズニーの「アナと雪の女王」で知られる名アニメーターが手がけた。これはほんの一例だ。

 持ち味はてんでばらばらなのだが、混沌としたネット世界においては、不思議に調和している。ベルと竜の関係を突き動かしていく音楽もまた、複数のクリエイターによるものだ。

 「世界は美しい」と、ベルは歌う。祈りに似た歌声がネットと現実をつなぎ、一つになったベルと鈴が竜の孤独な素顔に触れる。リアルでもバーチャルでも、結びつきたいと願う心は不可能を可能にする。SNSが凶器ともなる時代に、甘すぎるメッセージだろうか。

 そんなことはないはず。細田アニメの根底にある、おおらかな楽観性や、人間の善への信頼。それらが今、よりかけがえのないものに映る。2時間2分。TOHOシネマズ日比谷など。公開中。(山田恵美)