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「若者は、古い価値観に左右されずのびのび生きてほしい」=佐藤俊和撮影

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仮想世界の歌姫ベルは、竜と出会う(C)2021 スタジオ地図

「竜とそばかすの姫」、カンヌ・プルミエール部門に選出

 細田守監督によるアニメーション映画「竜とそばかすの姫」が16日から公開される。内気な女子高校生がインターネット上の仮想世界で歌姫になり、さらに「美女と野獣」の物語のような体験を経て成長するまでを描く。恋愛やアクション、サスペンスも盛り込んだエンターテインメント作品で、細田監督は「楽しんでもらいつつ、『本質的な美しさ』とは何かを考えてほしい」と語る。(久保拓)

 主人公すず(声・中村佳穂)は、高知県に住む女子高校生。全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に登録し、そこで作った自らの分身「ベル」として歌い始めたのをきっかけに、正体不明の天才歌手として注目を浴びる。

 すずは、山間部の過疎地という現実世界と、50億人の登録者がひしめく仮想世界の両方を生きる。今回、物語の主軸に高校生を選んだのは、インターネットに接しながら青春時代を過ごす今の若者たちのことが念頭にあったからだという。「批判や中傷が多いネットの荒波にのまれず、自分を信じて生きてほしいという希望を描きたかった」。自身の長男(8歳)と長女(5歳)へのエールも込め、彼らが高校生になる「少し先の未来」を思い描いて制作した。

 特に意識したのは、あらゆるものに潜む二面性の対比だという。すずが毎日、登校時に渡る川は、幼い頃に母が水難事故で亡くなった場所を想起させ、「生と死」の要素を兼ね備える。今作を手がけるそもそものきっかけも、「現実と虚構の二面性を持つインターネットの世界で、『美女と野獣』をやったらどうなるかと思った」こと。仮想世界と現実世界の鮮烈な対比も細田アニメならではだ。

 仮想世界で「ベル」として生きるすずは、「竜」(声・佐藤健)と呼ばれる謎の暴れん坊と出会う。そして、まさに「美女と野獣」のヒロインのように、粗暴に振る舞う竜が隠す心の傷に気づき、救おうとする。「竜に真心で向き合う姿には、優しいすずの母が重なって見える。外見的な意味ではなく、本質的な強さを体現している点で、現代の価値観にふさわしい美女だと思います」

 開催中のカンヌ国際映画祭の「カンヌ・プルミエール」部門に選出された。評価が確立された映画作家の新作を集めた新設部門で15日に現地で上映される。6日、東京都内で開かれた完成報告記者会見では「世界の変化を映画を通して確かめ合う意義のある場。貴重な機会だ」と語った。

 アニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立し今年で10年。「アニメ作りは甘くない。内容、技術ともに新しいチャレンジをしていかないと衰退する」。前を向き続ける。