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第11回 読売医療サロン「眼科医が見逃しやすい目の異常」
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眼科医が見逃しやすい目の異常(1)眼球の異常ではないのに起こる症状

 読売新聞の医療・健康・介護サイト「ヨミドクター」は6月29日、第11回「読売医療サロン」を東京・大手町の読売新聞東京本社内で開きました。今回のテーマは「眼科医が見逃しやすい目の異常」です。

 講師: 井上眼科病院(東京・千代田区)名誉院長 若倉雅登さん

 東京都出身。神経眼科、心療眼科。北里大学客員教授。日本神経眼科学会理事長、国際神経眼科学会総会会長、アジア神経眼科学会会長、東京大学非常勤講師などを歴任。視神経炎、視神経や眼球運動の異常を専門とし、最近は 眼瞼(がんけん) けいれんや抑うつによる目の異常など、他施設では扱いにくい病気の紹介が多い。著書に「目は快適でなくてはいけない」「目力の秘密」「目の異常、そのとき」「健康は眼にきけ」、日本初の眼科女医を題材にした小説「高津川」など。

 対談ゲスト: NPO法人「目と心の健康相談室」理事長 荒川和子さん

 福島県出身。北里大学病院眼科の主任看護師などを経て、井上眼科病院看護部長に。神経眼科疾患の患者の看護を数多く経験し、眼科専門病院では患者の様々な相談や患者会支援なども行ってきた。軽微な目や視覚の不都合でも日々の生活にも大きな支障となることを知り、若倉雅登医師らと共に相談室を立ち上げた。9月15日(金)に「講演会と無料総合相談会」を和光大ポプリホール鶴川(東京都町田市)で開く。問い合わせは同相談室042-719-6235(月・水・木)。

 聞き手:ヨミドクター編集長 堀川真理子

第11回 読売医療サロン「眼科医が見逃しやすい目の異常」

【50~268MB 時間:22分22秒】

患者さんは「すぐに治してもらいたい」

眼科医が見逃しやすい目の異常(1)眼球の異常ではないのに起こる症状

第11回読売医療サロンで講演する若倉雅登・井上眼科病院名誉院長(6月29日、読売新聞東京本社で)=高梨義之撮影

 私は心療眼科、さらに神経全体を見る神経眼科という領域を専門としております。本日は「眼科医が見逃しやすい目の異常」をテーマにお話しします。

 皆さんは、「目が疲れる」「かすむ」「しょぼしょぼする」「乾燥する」「涙が出る」などで眼科医に行かれますね。ほかに「まぶしい」「目が痛い」「異物感がありゴロゴロする」などの場合もあるかと思います。

 眼科医は、目の病気には対応できます。ところが、眼球には病気がなかったり、あまりたいしたことはないと判断したりすると、「異常はない」「失明しないから大丈夫」「目が疲れるのなら目薬を」「目がかすむのは老化だから仕方ない」「精神的なもの」などで片づけてしまう。でも患者さんは、心配だから来たのではなくて、具体的な症状があり、それを治してほしいから来ているわけです。

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 目は、何も不快がなくて使えているのが快適な状態です。ちょっとでも目に異物が入っただけで、痛みや不快感のために何もしたくなくなります。すぐに治してもらいたいと思う。にもかかわらず、周囲に「目がしょぼしょぼする」「まぶしく感じる」などと訴えても、「背中がかゆい」程度にしか感じてもらえない。

結果的に、症状が出現したメカニズムを説明でき、治してくれる眼科医が見つかるまで、転々としたりすることになります。

白内障の手術を受けるかは慎重に考えて

 例えば「まぶしい」と訴える患者さんに対して、一般眼科は結膜や角膜に異常がないかを調べます。アレルギー性結膜炎などで、まぶしいと感じる人がいるからです。

 白内障、それに視神経、網膜の病気もまぶしさの原因になります。

 ただし、白内障の場合、常にまぶしさを感じるわけではありません。そこをきちんと見極めず、「まぶしいのは白内障があるからです。手術をしましょう」と、短絡的に手術を勧める眼科医が少なくありません。何が原因なのかを把握せずに、すぐに白内障の手術を勧める医師は避けた方がいいです。

 白内障の手術をすべきかどうか、もしくはいつすべきかについては、患者さんの生活スタイルによって異なります。普段、ほとんどを自宅で過ごしているような人の場合、少々の白内障なら手術の必要はありません。一方、物を書いたり、会社へ行って仕事をしたり、テニスやゴルフなどのスポーツもやったりしている人は、軽い白内障でも手術をすると快適になることがあります。自分の生活をよく考えて、手術すべきかどうか、またはいつ手術をしたらいいのかを見極める必要があります。

 それに、手術をしたらからといって、必ずよくなる保証もない。目と脳のチャンネルがぴったり合わないと、物が快適に見えなくなります。そこを見極めずに手術しても、満足のいかない結果になることがあります。

 目には様々な不定愁訴が出ます。代表的なのがドライアイ。それにともなって「目が疲れやすい」「乾いた感じがする」「ゴロゴロする」「痛い」「視力の低下」「かすんで見える」などと訴える患者さんが多い。実は、僕もドライアイです。乾燥した場所でパソコンを使ったりすると特に感じます。ある統計によると、日本国内にはドライアイの人が2200万人もいるそうです。

 ところが、何でもかんでもドライアイにしてしまう眼科医がいるのです。治療用の目薬でも症状が改善しない場合は、別の病気が隠れている可能性がありますので、患者さんもしっかりご自分の症状を伝えることが大切です。

目のバランスが悪いと「目鳴り」に

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眼球の異常ではないのに起こる症状について話す若倉名誉院長(6月29日、読売新聞東京本社で)=高梨義之撮影

 次は、「眼球の異常ではないのに起こる症状」についてお話しします。

 まずは、左右の目のバランスです。それぞれの目の視力には問題ないのに、位置のバランス、もしくは右と左の見え方が大きく異なると見え方が悪くなります。

 人間の脳は、左右の目から別々に送られてきた像を足し算して、物を認識するようになっています。両眼視機能と呼ばれ、距離感や奥行きなどを測っているのです。ここに不都合が起きると、右と左で見える対象がずれたり、大きさが違ったりします。多少の違いなら脳で修正してくれますけれども、あまりにも違いが大きいと物が二つに見える複視や混乱視になってしまいます。

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 たとえば、目の位置、つまり「眼位」がずれた状態になる人がいます。光の反射は黒目の真ん中から入ってきますが、眼位がずれると物が二つに見えたり、転んだり、いすから落ちてしまったりします。治療や眼鏡などで修正できればいいのですが、それでも修正できずに物が二つに見えたまま、つまり「複視」の状態になります。物が二つに見え続けてしまうのです。

 眼球を収容している骨のへこみを 眼窩(がんか) と呼びますが、その中の腫瘍や炎症でも眼位のずれは起きます。甲状腺の病気「バセドウ病」になると、目の周りの筋肉が腫れたり、脂肪が増えたりすることがあり、それでも目の位置はずれてしまいます。

 それから「眼窩窮屈病」。これは私の命名ですけれども、強度の近視だと、目が大きくなるのですが、やがて眼窩の中がギュウギュウの状態になることがあります。その影響で目の位置がずれてしまいます。これは、ひどくなれば手術で治すことができます。

 最近、よく耳にする「加齢 黄斑(おうはん) 変性」も物の見え方に大きな影響を与えます。これは視野の真ん中が黒っぽく見えたり、欠けてしまったり、ゆがんで見えたりする病気です。片目だけが加齢黄斑変性になると、左右から入ってくる映像の質が違ってしまい、脳が混乱します。こうなると、目を開けているだけでつらくなります。

 この状態を私は「目鳴り」という造語で呼んでいます。

 「耳鳴り」は、皆さんもよくご存じですね。例えば、右の耳からはきれいな音楽が聞こえてくるのに、左からはガーガー、ガーガーと汚い音が入ってくると、脳は嫌になってしまいます。そこで汚い音の方のボリュームを落とそうとして耳鳴りを治そうとします。

 目でも同じことが起きます。片方の目からきれいな映像が入ってくるのに、もう片方からはゆがんだ映像が来る。加齢黄斑変性のために、右目と左目から違う映像が入ってきたら脳は混乱します。

 治療で目鳴りのボリュームが落とせる場合はいいですが、症状が強いと患者さんはつらいです。眼帯や「オクルーダー( 遮閉(しゃへい) レンズ)」などを使って、問題のある側の目を塞いでしまうのです。

 オクルーダーのうち私どもが開発した「オクルア」という商品は、眼鏡の片方のレンズをすりガラスのように染色してあります。外からは、両目とも開いているように見えます。よく見れば、実はレンズが濁っていることがわかりますが、ちょっと見ただけではほとんどわからない。

眼瞼けいれんは薬の副作用の可能性も

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若倉名誉院長の講演に熱心に耳を傾ける参加者(6月29日、読売新聞東京本社で)=高梨義之撮影

 先ほども触れましたが、「物を見る」という行動は目だけの仕事ではありません、目と脳の共同作業なのです。少し難しい言葉ですが、これを「視覚の高次機能」と呼びます。共同作業がうまくいかないと、「かすむ」「ぼやける」「しょぼしょぼする」「まぶしい」「痛い」などの症状が発生する可能性があります。だから、眼科で目だけ診てもらって、「目は正常です。大丈夫ですよ」と言われても、脳内のコンピューターで信号の伝達がうまくいかなかったり、視覚の処理機能中にノイズが入ったりします。

 さて、眼球に異常がないのに、「まぶしさ」を感じさせる病気に「眼瞼けいれん」があります。「まぶしい」「目をつぶっていたほうが楽」「外を歩くと目をつぶってしまう」などを訴える方もいます。それで歩いていて何かにぶつかってしまったり、階段から落ちてしまったりします。私のところに「眼科に行こうと思ったら階段から落ちてけがをして、今、整形外科に来ています」なんて電話がかかってくることもあります。

 まばたきが多くなったり、片目をつぶっていたりしますが、開いている時には「まぶしい」と感じたりもします。目の異物感や不快感、それに眼痛が一緒に出ることもあります。そのほか、「まぶたがうまく働かない」「まばたきが多過ぎる」「目を開けようとしても、うまくいかない」などの症状になります。さらに重篤になると、目をつぶったままになってしまう。抑うつ感や不眠、焦燥感、不安などの精神症状が伴うこともあります。

 これは脳の回路の故障や雑音が原因です。表面的には目の異常でも、問題は脳で起こっているのです。

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 そんな場合、特殊な機能画像を使わないと異常が見つかりません。臨床的に理解している医師なら診断がつくのですが、そうでない医師はドライアイや眼精疲労、加齢性の眼瞼下垂、更年期障害、自律神経失調症などと診断をしてしまいます。私の統計だと、18~20人に1人の眼科医しか、この病気のことを理解していないようです。これでは、症状が一向に良くならないはずです。症状が出て5年近くもたって、ようやく診断がついたという患者さんも少なくありません。

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 眼瞼けいれんの場合、その原因の特定は難しいのですが、薬の影響であることが少なくありません。およそ3分の1が薬物性です。主に睡眠導入剤などが引き起こします。

「デパス」「マイスリー」「レンドルミン」「ロヒプノール」「コンスタン」「ソラナックス」「ハルシオン」「ワイパックス」などが原因となるケースが多い。

 もちろん、1度や2度飲んだぐらいでは大丈夫です。ほとんどは、3年、5年、10年と飲み続けた結果です。ただし、敏感な人は1週間とか2週間の服用でもまぶしさを感じることもあります。多くの睡眠導入剤はベンゾジアゼピンという化学式でできているので、このような症状を「ベンゾジアゼピン眼症」として認識すべきだと、学会などで提唱している最中です。

 問題なのは、睡眠導入剤は連用するにつれて依存性が高まることです。飲みつけてしまうと、体も心もこの薬がないと生活できないぐらい依存し、やめるのが非常に難しくなります。急にやめると別の症状が出たり、不眠などが悪化したりするので薬離れも難しい。

 にもかかわらず、睡眠導入剤は、日本では多くの人が利用しています。ある統計によると1人当たりの処方量はアメリカの12倍にもなっています。眼科ではめったに使いませんが、内科、整形外科、もちろん心療内科などのメンタル系ではよく使われます。欧米では、2か月以上は連続して出さないなどのルールになってきています。

 さて、多くの皆さんが強い関心をお持ちなのは、目が加齢でどう変化するかだと思います。

 「若い頃のように物を読む持続力がない」と訴える方も多いのですが、それは当たり前です。目は老化します。60年も70年も使い続けてきたのだから、持続力もだんだん衰えていきます。

 まぶたが重くなってくる原因の一つも老化です。50歳ぐらいから、まぶたの筋肉が衰え始めます。腕立て伏せで若い人に勝てないのと同様です。それに「睡眠を長くとれない」も当たり前の加齢現象です。眠れないからといって、睡眠剤をどんどん飲むと、先ほど申し上げたような、目の不調につながる危険がありますので、注意してください。




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