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やない・ただし 1949年生まれ。72年、小郡商事(現ファーストリテイリング)入社。84年6月、広島市に「ユニクロ」1号店を開き、この年に社長に就任した。02年会長。05年からは社長も兼務。著書に「経営者になるためのノート」(PHP研究所)など。山口県出身。

ブランド力<8>

ファーストリテイリング会長兼社長 柳井正氏 75

 日本の小売業の特徴として、「他の人のブランドを売る産業」という考えがあった。でも、お客様の声を聞き、トレンドを踏まえて、自分たちの立ち位置を決めて商品を作っていかないと長い成長はないだろう。

 自分たちの価値観をつくるためには「あなたは誰か」という名前が必要だ。言葉にしたり、ビジュアルにしたりしたブランドと、実態を同じにして、顧客に支持される企業にすることだ。そのためにはまず覚えてもらい、日本や世界でポジションを得るために努力しないといけない。表面的な「化粧」をすることがブランドだと考えている人が多いが間違っている。

 ユニクロが単純な小売業ではなく、ブランドとして知られるようになった大きな転換点は、1998年に始まった「フリースブーム」だった。

 その時に考えたのは、ユニクロはあらゆる人が「良いカジュアル」を着られるようにする新しい企業だと示すことだった。そのコンセプト(基本理念)を象徴する商品として、当時最先端の衣料だったフリースを選んだ。それも他社と同等か、それ以上の品質のものを、他社とは違う価格で。日本国民全員に買ってもらいたいと思っていた。

 当初から世界に出ようと考えていた。世界で勝つためには、ニューヨーク、パリ、ロンドン、この3都市で勝たないといけない。情報の発信地は世界の大都市だ。だから米欧やアジアの主要都市に出店して、一定の立ち位置を保てないブランドはだめだと思う。

 今、掲げているのは「ライフウェア」だ。究極の普段着という意味で、良い服を誰でも買える値段で提供したい。我々の服は何年も着られるように良い素材で作っている。今着ている服も、いつ買ったか覚えていない。でも着られる。それがエコにも通じる。

 世界中の人々がユニクロがあって良かったと思ってもらえるような服を作りたい。安心して買え、着てみたら思ったよりもいいなと思ってもらいたい。服を通じて社会を良い方向に変える。服を変え、常識を変え、世界を変えていく。ブランドはこうしたモットーを持つことが大事だと思う。(この連載は、柿沼衣里、小沢妃、小林泰明、福島春菜が担当しました)