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きらぼし銀行

 長野県内の50歳代の会社社長が2022年、地方銀行「きらぼし銀行」(東京)から約4億6000万円を送金した際、犯罪収益移転防止法などに基づく確認が不十分だった疑いがあり、金融庁が同行側から事情聴取したことがわかった。社長は2か月弱の間に、会社資金を外国人名義を含む多数の口座に1回数百万円以上の単位で約80回送金し、同法の関連指針などに抵触する可能性があったが、同行は送金目的などの確認を徹底しなかったという。

 関係者や会社の内部資料によると、社長はSNSで知り合った外国籍を名乗る人物から投資を勧誘され、指定された外国人名義などの複数の個人口座に自己資金を送金。さらに増額を求められ、会社資金約7億5000万円をきらぼし銀行を含む複数行にある自身の口座に移動させた後、各行の窓口などで口座からの送金を依頼した。

 このうち、きらぼし銀行からは22年5月以降、都内の同じ支店から一日のうちに500万円ずつ十数の口座に送るなど、残高が底をついたとみられる6月中旬までの間、約80回にわたり計約4億6000万円が送金された。送金先の口座は、のちに大半が捜査機関から「犯罪に使われた疑いがある」と認定され、金融機関が凍結したが、資金はその前にほぼ全額が引き出され、回収不能となっている。

 金融庁は犯収法や関連指針に基づき、金融機関に対し〈1〉資産や収入に見合わない高額取引〈2〉短期間の頻繁な取引〈3〉送金先について不明瞭な点がある取引――は依頼者側に送金目的などを繰り返し確認し、本店で送金可否を判断することなどを求めている。

 社長の依頼は〈1〉~〈3〉に該当する可能性があったが、きらぼし銀行からの送金は、社長が最初に窓口を訪れた際に送金目的などを尋ねて明確な回答を得られなかったにもかかわらず行われ、繰り返しの確認や本店の送金判断もなく続けられていた。同庁はこうした対応を問題視し、職員らから事情聴取を行うなどしたという。

 社長は取材に対し、一連の送金について「会社資金を増やすつもりだった。『お金は戻る』と言われ、指示されるままに続けてしまった」などと説明した。

 きらぼし銀行は、東京都民銀行、八千代銀行、新銀行東京の3行が合併し、18年5月に発足した。同行は取材に「個別取引や顧客情報に関する事項は回答しかねる」とした上で、「一般論として、窓口での送金受け付けの際は犯罪収益移転防止法、当局ガイドラインや行内の規定・マニュアルに沿って適切に対応している」などと回答した。

 ◆犯罪収益移転防止法=200万円超の送金といった「特定取引」などを依頼する顧客に対し、本人の氏名や住所、生年月日、職業のほか、送金目的などを確認するよう金融機関に義務づけている。不審な取引があればその都度確認をやり直すなどし、応じない場合には「応じるまで取引依頼を拒める」としている。

資金洗浄対策強化の中で見過ごし…「法令違反の可能性も」

 金融機関の送金業務を巡っては02年、計5億円超に上る不正送金を見過ごした地銀2行が金融庁から注意を受け、その後に業務改善命令が出された例がある。

 国境を超えたマネーロンダリング(資金洗浄)が横行し、日本でも対策強化が図られてきた中で、今回ほど多額の不審な送金を見過ごしていた疑いが浮上するのは異例だ。送金は社長の意思に基づく「自己責任」の行為とはいえ、きらぼし銀行の確認が厳格に行われていれば会社資金の「流出」はより少額で済んだ可能性もあり、専門家からは同行の対応を疑問視する声も出ている。

 2007年に成立した犯収法は、マネロンなどの犯罪への抑止力を高めるため、金融機関が行う取引時の確認項目を増やすなど改正が重ねられてきた。それでも、主要先進国が加盟する国際組織「金融活動作業部会(FATF)」は日本に対し、特に中小金融機関の対策が不十分だとたびたび指摘。今回の問題は、国際的な評価をさらに低下させる恐れもある。

 同法や金融犯罪対策に詳しい中崎隆弁護士は、「高額の資金を外国人名義を含む数十もの口座に繰り返し送金するなど不審点が多く、取引時確認のやり直しや犯収法に基づく追加調査が必要な事案とみられ、法令違反の可能性も疑われる」と指摘。その上で「世界基準にならい、各金融機関が犯罪対策部門の予算・人員を拡充させるとともに、確認や追加調査ができない顧客の取引は金融機関が拒絶すべきことを法令で明確に定める必要がある」としている。