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【第六話】ドアスコープを覗いた先には…

これは、僕の同級生の身に起こった話だ。

当時、中学生だった彼は家族とともに団地に住んでいた。

物音も聞こえない、静まり返った深夜、家族の誰もが寝入っている時間帯。
当然、彼も自分の部屋の、自分のベッドで眠っていた。しかし、深く眠っていたはずが、気がつくと彼は玄関ホールに立っていた。

あれっ、何で、オレ、ここにいるんだろう。

覚醒しないまま、ぼんやりした頭で、玄関に立っている自分をうっすらと自覚するが、やはり、靄がかかったように不安定な意識のままだった。

そんなことが翌日もまた起きた。

眠りから完全に覚めないまま、ベッドから起きだして、ほとんど無意識の状態で自分の部屋を出て、玄関の前に立つ。そして、ベッドに戻り、何事もなかったように朝を迎えるのだ。それは、まるで夢遊病者そのもの。

3日目の深夜だった。
昨夜とは違い、彼は薄い意識の中で自分が玄関に向かって歩いているのが、はっきりとわかった。しかし、自発的に玄関に向かっているのではなく、勝手に足が動いている、否、何かに導かれるように歩いている気がしてならなかった。

開けるな!

玄関に立った彼の耳元で重低音のように響いた声。
誰? 何?

開けるな!!

全身を貫く、刺すような激しい声が彼の背中からはっきりと聞こえた。恐る恐る振り向くと、すぐ後ろに彼の祖父が立っていた。

おじいちゃん…

死んだはずの祖父が真っ直ぐ立っていた。
頑固で厳しい祖父だったが、彼にとって、思い切り甘えられる、かけがえのない存在だった。そんな祖父は5年前、彼がまだ小学生の頃に亡くなった。
その祖父が生前と変わりない、毅然とした姿で彼を制した。
決して、玄関のドアを開けてはいけない。
祖父はそう言いたかったのだ。

わかったよ、おじいちゃん。玄関は絶対開けない。

そう思ったものの、玄関の扉の向こう側に何があるのか見たくてたまらない衝動に駆られてしまった。
ドアスコープからちょっと覗くだけ…。恐怖心より好奇心が勝っていた。
玄関のたたきに素足のまま、そっと下りてドアスコープに近づいた。
そうして、ドアに手をかけ、大きく開けた片目をドアスコープにくっつけるようにして扉の向こう側を覗いた。

開けてええええええ!!

そこには髪の毛を振り乱した、顔中血だらけの女が半狂乱になって、ドアをガンガン叩いていた。剥きだした目、裂けんばかりに開かれた大きな口…。もはや、この世のものとは到底思えなかった。

気がつくと、彼は自分の部屋のベッドで朝を迎えていた。
何事もなかったように、また1日が始まる。

彼は夜中に目覚め、玄関に立つことはなくなった。

あの女は、年月が経った古い団地に、今もなおさまよい続けているのかもしれない。哀しい魂を救うことは誰にもできない。

今回の語り手

岩瀬ガッツ(ロングヘアー)

1987年生まれ。
2009年からコンビ「ロングヘアー」で相方のひろた勇気と活動中。
毎月第一第三土曜日の19:00~19:55FMぐんまで音楽バラエティ「KAMINARI RECORDS」のパーソナリティも務める。(2013年10月現在)

金縛りに遭ったり、何かを感じたり、怪談ライブを行った日の夜、寝ようとすると耳が遠くなったり、僕は霊を呼んでしまう体質なんでしょうか。さて、次回は吉本興業NSCで同期だった、魂の巾着本多おさむさんに登場していただきます。墓地の管理人をしていた本多くんならではの怖い話をお楽しみに!

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