日本を代表するアニメーション映画監督、細田守さんの最新作「竜とそばかすの姫」が7月16日に公開されました。プロデューサーのひとり、谷生俊美さん(日本テレビ)に作品の魅力や制作秘話を聞きました。

「とんでもなく面白いもの、素晴らしいものになりました。制作途中で何度も見ていますが、そのたびに泣いてしまって。素直に感情が動かされる、そんな作品です」

ストーリー 母の死から歌を歌えなくなっていた女子高校生のすず。ある日、親友に誘われ、50億人以上が集うインターネットの仮想世界「U」に参加します。そこで「As(アズ)」と呼ばれる分身を作り、すずは「ベル」と名付けます。ベルとしてなら歌うことができ、その歌声はUの中で人々を魅了します。ベルのコンサートの日、突如、乱暴で忌み嫌われている「竜」が現れます。やがて世界中で竜の正体探しが始まり、「U」と現実世界の双方で竜への誹謗ひぼうがあふれます。ベルは竜を探し出し、その心を救いたいと勇気を持って踏み出します。

細田監督がネットの世界を描くのは、2009年公開の「サマーウォーズ」以来で、3度目となります。完成記者会見で細田監督は、「ネットの世界そのものがまだ25年くらい。ネットと現実の関係性を映画にし、しかも肯定的に描く監督は、世界でも恐らくぼく一人だと思う。この間、インターネットは大衆化し、現実とネットの世界が限りなく近づいている。そういう意味では今日的な問題を扱っている」と話しています。だからこそ、架空の物語でありながら、すぐそこの未来に起こりそうなリアリティーも感じさせます。

多幸感に包まれる映像と音楽の「密度」

作品の最大の魅力は、「密度の濃さ」だと谷生さんは言います。「音楽も映像も、ぎゅっと連なって迫ってくる。見終わると、多幸感に包まれるよう。エンドクレジットまで見てほしいです」

「密度」を支えるひとつが、細部にこだわった映像です。「すずの暮らす高知もリアリティーにあふれた表現になっていますし、東京・多摩川の住宅地も細かく描写されています。聖地巡礼のようなことも含めて楽しんでほしいですね」と谷生さん。

そしてもうひとつが、圧巻の音楽。「邦画としては考えられないほど豪華な布陣で制作しています」。岩崎太整さん、クラシックの作曲家坂東祐大さん、スウェーデン出身でゲーム音楽などで知られるLudvig Forssellさんといった、そうそうたるメンバーです。メインテーマ曲は、ロックバンド「King Gnu」の常田大希さんによる音楽プロジェクト「millennium parade」が担当しています。「『U』の世界をいかに構築するかが、重要なテーマでした。50億人が集まるのですから、多様性にあふれた世界をどう表現するか。自然とこういう多様なメンバーが集まりました。この作品における音楽の要素は非常に大きいです」

トップクリエイターを起用するだけでなく、「密度」を出すために驚くべき手法も取り入れました。ある重要なシーンのために、世界中から声の音源を募集したのです。「3000人以上の声をミックスして作り上げたので、音の厚みが違います。ハリウッドにも全然負けてないと思います。細田作品では初めてIMAXでの上映もあります。ぜひ劇場で音に包まれてほしいですね」

夏の祝祭の時間に、自分を抱きしめて

年齢に関係なく楽しめる映画ですが、「やはり若い人に見てもらいたい」と谷生さんは言います。「女子高校生のすずが、いろんな葛藤を抱えながらもUの世界での出会いによって成長し、自分を抱きしめることができ、世界を愛せるようになる。コロナによって世界中で生活が抑圧されるなか、部活や修学旅行も体験できなかった若い人たちに、夏の祝祭、希望の時間を届けたい」

大手小町の読者である20代、30代の女性たちにとっても、元気をくれる作品といえそうです。映画制作に携わった30代の女性は「号泣しました。自分のままでいいんだと肯定された思いがしました。優しく寄り添ってくれる作品です」という感想を寄せたそうです。谷生さんは、「普段はアニメーションを見ないという人も、きっと発見があると思うので、ぜひこの作品に触れてほしい。エンドロールまで音響と映像の豊穣ほうじょうな海に浸っていただき、夏の清涼なひとときを過ごしてください」と話しています。(読売新聞メディア局 小坂佳子)

「竜とそばかすの姫」
7月16日(金)から全国公開
原作・脚本・監督:細田守
出演:中村佳穂 成田凌 染谷将太 玉城ティナ 幾田りら / 役所広司/佐藤健
メインテーマ: millennium parade × Belle「U」(ソニー・ミュージックレーベルズ)