文子さんが言う「自分が安定していられるのは、そばに安定している人がいるから」の南さんですが、その南さんの安定はどこからくるのか。第3回目はそのことについてお伺いしました。
ポジティブな人
美子 南さんのこと、どう思ってました?
文子 どう思ってたのかな。年が10歳離れてるからね。
美子 そうだね。10歳離れてるもんね。
文子 年離れてる人とそれまで付き合ったことないから。
美子 大人だなとかいうのはあったんですか。
文子 前向きな人だなとは思った。今でいうと、ポジティブ。
南 へえー(笑)。
美子 南さん、今、初めて聞く一言かもしれない(笑)。
文子 あんまりクヨクヨしたりとかしないし。
美子 南さんって、そうい...
ジャンル
男と女
文子さんが言う「自分が安定していられるのは、そばに安定している人がいるから」の南さんですが、その南さんの安定はどこからくるのか。第3回目はそのことについてお伺いしました。
ポジティブな人
美子 南さんのこと、どう思ってました?
文子 どう思ってたのかな。年が10歳離れてるからね。
美子 そうだね。10歳離れてるもんね。
文子 年離れてる人とそれまで付き合ったことないから。
美子 大人だなとかいうのはあったんですか。
文子 前向きな人だなとは思った。今でいうと、ポジティブ。
南 へえー(笑)。
美子 南さん、今、初めて聞く一言かもしれない(笑)。
文子 あんまりクヨクヨしたりとかしないし。
美子 南さんって、そういうとこ全然ないですよね。
南 だって、いきなりクヨクヨするというのは(笑)。
文子 あんまり心配したりとかしないし。そういうのが珍しいっていうか、新鮮だったのかな。私が気持ちが安定できるのは、安定している人がそばにいるからだと思うんです。
美子 思考が常にポジティブみたいな。
文子 能天気っつうか、そういうのは心強いっちゃ心強い。どっちかって言うと、こっちがクヨクヨするタイプだから。クヨクヨしたりすると「大丈夫!」って。根拠はないんだけど、わりと「大丈夫!」っていう人だから。
末井 前、南さんが何かで書いていたと思うんですけど、だいたいどんなことでも「なんとかなると思えば、なんとかなる」って。ボクは秘密の言葉として、それを座右の銘にしてるんです。ネットで人生相談やってるんですけど、「なんとかなるって思えば、なんとかなります」とか答えて。全然答えになってないんですけど(笑)。
文子 心配になったりしないのは、先のこととか考えないから。最近、ちょっとおとなしくなったりするのは、年とともにだんだん体の具合が悪くなったりするじゃないですか、痛くなったり。
南 体の具合が悪くなると、弱くなる(笑)。
末井 ボクも最近、弱いんですよ。
文子 悪いの?
美子 風邪が治んないとか、腰が痛いとか、常に何かあるの。耳が遠いって言うと嫌がられる。そこに触れないでくれって(笑)。
文子 私も最近、「おじいちゃん」って呼ぶことがあるけど、「おじいちゃんって言うな」って(笑)。
美子 おじいちゃん、かわいそう。
文子 だって、何度も同じこと言うから。これで4回目だよとか。
南 「もしもし、おじいちゃん」って。
末井 自分が高齢者っていうふうに思ってないんですよ。
南 うん、思ってない。
末井 去年の前半まではボクもそうでした(笑)。
文子 去年の後半から? 何があったんですか。
末井 疲れやすい、昼間眠い、仕事が集中できない、風邪が治らないとか、いろんなことが重なって、だんだんダメだなあって。
美子 サックスで参加しているペーソス(平成歌謡バンド)も、あまりにライブがあり過ぎたから、生前退位とか言って、月に2回ぐらいにしてもらって。
末井 サックスを首からぶら下げて立ってるだけでもつらいから、出るのは半分以下に抑えて。ライブの回数が年間100回もあるんだから。やり過ぎですよ。
放っておくと大体みんな真面目になる
文子 最近はあんまりケンカもしなくなったね。
美子 ケンカしないのはいいね。
文子 多少はするよ。口ゲンカぐらいはするけど、大ゲンカはもうない。ケンカすんのも大変じゃない。エネルギーがなくなってきたからね。
美子 省エネ?(笑)
文子 ムラムラムラっときても、まあいいか、ショボーンって、シューンって。前だったらムラムラッときたら、ドッカーンっていくじゃない、若いころは(笑)。それがもう、さっさと「ごめんね」って言って、終わりにしちゃったほうが楽かなとかね。
末井 ドッカーンってあったんですか。
文子 昔はね。
南 でも、大体大したことはないよな、原因は。
文子 まあね。
末井 ドッカンで離婚まで考えたり。
文子 それはない。離婚は一度も考えたことないですね。多分南もないでしょ。
南 うん、ない。
文子 そんなに離婚を考えるほどの深刻なケンカとかはしたことないな。
美子 じゃあ、そこは本当に相性がよかったのかね。
文子 面白いとか思うことはわりと似てる。
南 そうだね。食べ物とか、大体似てるよね。一緒にいるから、こうなったのかもしれないけど。面白いと思うことは、わりと最初から似てたんじゃないかな。
美子 クヨクヨしない前向きな南さんで、だんだん文子さんもそういう思考に影響されていくっていうか。
文子 どうなんですかね。
南 クヨクヨしてたのかな。そんなこと、あんまりあったような感じはしないけど。
文子 南が言うのは、なんでも放っておくと大体みんな真面目になっちゃうって。真面目になっても、あんまりいいことはないから、真面目になり過ぎるのはよくないって。
美子 そうね。南さんのそこがすごくいいと思いますね。真面目になり過ぎるのはよくないって、確かにその言葉が一番ぴったりですね。
文子 放っておくと大体みんな真面目に、真面目になり過ぎる方向にいっちゃうから、時々「あ、ダメダメ。ちょっとマジになり過ぎた」って、笑ったりしたほうがいいっていうのは、なかなかそうだなって思う。
南 最近はマジっていうよりは、どこか痛いとか、体の具合が悪いっていうときに、笑いが足んないって。
美子 そう言われるの?
末井 それも酷だよね。
文子 だけど、笑うっていうのは、おかしくなくても笑ってると脳をごまかせるんだって。それ聞いてから。
美子 代謝がよくなる。
文子 代謝っていうか、自分で自分の脳をだませるっていうか。楽しい気分っていうのは、楽しいから笑うこともあるけど、笑って楽しくなることも本当らしい。
美子 笑いヨガっていうのもあるらしいですよね。笑って健康になるみたいな。
末井 うちはあんまり笑いが足んないかな。
美子 そこを学ばなきゃね。
弟体質とお姉さん体質
文子 南はちょっと最近怒りっぽくなってきたのね。編集者の人とかと電話で、ケンカっていうんじゃないけど、「もう1回ちゃんとやり直してくれればいいんです!」とか、「あんだけ言ったのに直ってないじゃないですか!」みたいなことを、ちょっとしつこく言ってるわけ。電話切ってからもブスッってしてるから、しばらくは放っておくんだけど、いつまでもブスッってしてるから、「もしもし、笑いがちょっと足んないんじゃない?」って。
美子 でも、すごい文子さんの言い方が優しいよね。そういうの、やっぱりえらいなと思って。私なんか電話切った途端に「あんな言い方して」みたいに言っちゃうから。そうすると、またそれがケンカの火種になっちゃって。だけど、文子さんは南さんを見てて、ちゃんと間を取って、鎮火に向かうときに言うとか。そういうのはすごいえらいなと思うんだけど。
文子 でも、たまに「そんな言い方はない」とも言われる。
美子 え、どんなとき?
文子 「お腹ひっこませろ」っていうのは、しょっちゅう言いますね(笑)。
南 うん。言い過ぎだよ(笑)。
末井 言い方っていうのもありますよね。
文子 結局言い方なんですよね。
美子 『狸の夫婦』にあるんですけど、プチトマト切断事件。
南 あれは、そんなに怒んなくてもいいじゃんっていうぐらいに怒るんだよ。
美子 赤瀬川さんの奥さんの尚子さんから、プチトマトの苗をもらって。南さんがやたらに水をやりたがって。
文子 水、やり過ぎなんです。葉っぱも取っちゃうし。
(文子さん、しばし退席)
南 やっぱり、信じらんないっていうのがあるんだろうね。農作業をやってたわけじゃないけど、農作業とかって常識があるわけ。こっちは非常識なんで。オレは園芸書のコピーを見て、芽を切るとかっていうのはこういうことなのかなってやってるうちに、ものすごく切っちゃったわけよ。するとものすごく切っちゃったっていうのをすごく嫌がる。ものすごく怒る。水をやり過ぎるのも怒る。
美子 雨が降った次の朝、「水やり過ぎじゃない?」って言われて、「こっちまでは雨吹き込んでないしさあ、土こんなに乾いてるじゃんと、口をとんがらせてる私はほとんどコドモである」って書かれてますよね。わりと南さんのほうがそういう子ども的になっちゃうっていうのはあるんですか。
南 そうですね。
美子 南さんはやっぱりお姉さん2人いらして、どっちかっていうと弟体質っていうか。
南 それはもう全然お兄さん体質じゃないです。
美子 だけど、世間的には。
末井 世間的にはお兄さんだよね。
美子 そうそう。すごい大人っていう、いかにも寛容で、南さんは大人だっていうイメージがあるから。じゃあ、文子さんとの関係においては、やっぱり子ども体質?
南 そうですね。自分では大人って思ってなかったんだけど、そう思われているのかなあ。
美子 文子さんは、お姉さんもお兄さんもいらっしゃるけど、甘える人じゃないですよね、人に。
南 甘えるのは下手なんじゃないかな。
美子 甘えない人ですよね。じゃあ、そこが結構合ってるといえば。
南 オレはもっと甘えてもいいんじゃないのかなって思うけど。オレとの関係だけじゃなくてもね。他の人に対して。
美子 そうですよね。文子さんは絶対甘えとか出さないですよね。じゃあ、10歳も離れてるけど、子どもでいられてよかったなみたいな感じが?
南 うん、そうですね。
美子 そんなに自分が家長でとか、自分が主になってやらなきゃとか、そういうのは。
南 ないですね。子どもがいたりするとまた違うんだろうけど、いないし。
和風ハロウィン「妖怪はしわたし」の南さんと文子さん。それぞれ手作り。
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南伸坊 1947年6月、東京生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。第29回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。著書に『笑う写真』『ぼくのコドモ時間』(ちくま文庫)、『笑う茶碗』(第4回京都水無月大賞受賞、筑摩書房→ちくま文庫)、『本人遺産』(文藝春秋)など多数。
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男と女