南さん、文子さん共に好きな赤瀬川原平さん。美学校の先生だったけど、先生という感じではなかったそうです。でも、赤瀬川さんがいると、いつも場が楽しくなったとか。最終回は、そういう赤瀬川原平論と、将来の話。将来のことをあれこれ思い悩むのではなく、将来のことを考えたことがない。それがクヨクヨしない秘訣なのかもしれません。
酎ハイ2杯
末井 この前、『OFF』っていう雑誌で「破たん夫婦VS.安泰夫婦」という特集があったんだけど、アンケート調査すると、半分ぐらいの夫婦のどっちかが離婚を考えてたりして。
南 やっぱ我慢してるんだろうね、みんな。うちは我慢はしてないよね、わりとケンカはするもんな。
文子 そうそう。...
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男と女
南さん、文子さん共に好きな赤瀬川原平さん。美学校の先生だったけど、先生という感じではなかったそうです。でも、赤瀬川さんがいると、いつも場が楽しくなったとか。最終回は、そういう赤瀬川原平論と、将来の話。将来のことをあれこれ思い悩むのではなく、将来のことを考えたことがない。それがクヨクヨしない秘訣なのかもしれません。
酎ハイ2杯
末井 この前、『OFF』っていう雑誌で「破たん夫婦VS.安泰夫婦」という特集があったんだけど、アンケート調査すると、半分ぐらいの夫婦のどっちかが離婚を考えてたりして。
南 やっぱ我慢してるんだろうね、みんな。うちは我慢はしてないよね、わりとケンカはするもんな。
文子 そうそう。我慢はしない。末井さんちみたいに嘘をつかないことにするって、別に約束してないんで、罪のない嘘ならね。浮気をしてるのに浮気してないとか、そういう嘘はつかないけど。
末井 嘘をついたりするの?
南 どうでもいいようなことだったらね。
文子 どうでもいいようなことだよね。
美子 例えば?
文子 ものすごいくだらないことだよね。
南 でも、どっちかっていうと、すぐ顔に出ちゃうから。
美子 そんなに飲んでないよとか、そういうこと?
文子 それもあるね。酎ハイ2杯とか言って、でも絶対2杯じゃないよねっていうのはあるんじゃない。
末井 ボクは飲んですぐ顔に出るから、2杯ぐらいしか飲んでないのに、5杯ぐらい飲んだように見える。2杯と言っても信じてもらえない(笑)。
美子 だって、ずっと何時間も飲んで帰ってきて、2杯っていうことないんじゃない?
文子 そうだよね。時間かかるとね。
美子 ほら、黙っちゃった。
文子 覚えてないっていうのもあるんだよね。覚えてないかもしれない。
末井 覚えてないときもある。
文子 2杯って思いたい?
末井 3杯以上は分かんないからね、何杯か(笑)。
南 一応やっぱりそれは心配してくれてるわけだから、そこで10杯ぐらい飲んだかなって言ったら、もっと心配しそうじゃん。大体、そんなに飲んでないし。最近はもう、自分のほうで体のことを考えるようになったからね。前は結構「いやいや、そんなに飲んでない」って言って、普通に飲んでるときもありましたけど。
文子 勧められれば、つがれちゃったりすると飲んじゃう。でも最近、だんだん年になってくると、そんなに周りも勧めなくなってきたみたいで。
末井 そうね。ボクもわりとそういうところはあります。
文子 イラストレーターの集まりはやっぱり、(安西)水丸さんがお酒飲んで倒れたりしたから、そういうのがあるとね。
南 あんまり飲まない人が多くなってきた。
文子 若い人なんか、今はね。
美子 そうだね。若い人はあんまり飲まない。
赤瀬川さんがいると場が楽しくなる
末井 赤瀬川(原平)さんは、先生っていえば先生ですね。いろんなことを教えてもらったみたいなことがあるわけですね。
南 赤瀬川さんは、本当は面白い人なんだよね。自分が自分がっていうのが全然なくて、でも赤瀬川さんがいると、その場がすごく楽しくなるっていう。話の仕方が面白いんだね。みんなで面白くなるように話すんですよ。面白い話をする人っているじゃない。自分が中心になって、自分がドーッと話をして、みんなもそれでワーッとなるっていう。そういうんじゃないんだよね。
文子 不思議だよね。赤瀬川さんみたいな人ってあんまりいないよね。
南 いない。めずらしいタイプだと思う。それが楽しかったから、それはわりと染み込んだかもしれないですね。
文子 面白がるっていう。
南 一番面白いのは、誰か1人が頑張ってその場を面白くすることより、みんながオレも話したいってなるような感じね。オレもオレもってみんなが話して、どんどん盛り上がるっていうのが一番面白いっていうのが分かった。
末井 場をつくる。
南 そうだよね。
末井 場ができる。
美子 赤瀬川さんは面白がるのがうまいっていうようなことを、前に南さんがお書きになってましたよね。赤瀬川さんが面白がってくれるから、みんなも嬉しくなるっていうような。
南 無理してるわけじゃないんですよね。本当に面白がってる。だから、教育者みたいな人じゃ全然ないわけで、自分が子どもだから、その場で新しいものが生まれるのがすごく好きなんだよね。話してるうちにみんなのアイデアが出てきて、それでゲラゲラ笑ってるっていう状態が好きだから。
美子 赤瀬川さんはもともとアーティストで、自分の作品を作っていて、でもそれをやって突き抜けちゃって、アーティストとしての自分が1人でいる世界じゃなくて、もっと他の人とみんなで楽しむっていう。
南 そういうふうにしようって思ってたというよりは、それが楽しいっていうことが分かったっていうことじゃないかな。だからことさらにお酒を飲んで、今日は盛り上がろうっていうふうにしてるわけじゃなくても、その場にいた人たちで話が盛り上がるっていうのが多かったですね。
美子 赤瀬川さんって、あんまり人の好き嫌いとかはなかったんですか。
南 いや、嫌いな人はいたと思うよ。
美子 苦手な人は?
南 苦手は、わりとちゃんとした人は苦手だったんじゃないのかな。自民党のあの人は首が太いとか。都知事の応援演説会みたいな立会演説会とかに行って、そういう右翼っぽい人とかの特徴を言うのが、子どもの観察みたいな感じなんだよね。顔のここに線が入ってるとか(笑)。そういう人ばっかりじゃないと思うんだけど。
文子 重い首がのって、段になってるみたいな(笑)。
美子 決め付けるのがおかしいですね、赤瀬川さんの。
南 いつも会ってないような人たちと会わなきゃなんないような場合に、積極的にその場で話しかけたりするタイプじゃないですよね。最初からものすごく積極的に人と交わるとか、社交的っていうんじゃないんだよね。だけど、例えば野球だったり、普通の人がみんな知っている、その話をすれば一応みんなで話ができるというようなことは、オレなんかより知ってたと思うんだけど。麻雀なんかもやるし。
文子 南はそういう、割と普通の人が興味あるようなことを一切やってない。例えばゴルフとか、カメラが好きとか、車が好きとか、そういうのが全然ないんだけど、赤瀬川さんって芸術家っぽいところはもちろんあるんだけど、ものすごいカメラが好きでしょ。あと野球も好きだし。時計も好き。
南 野球はジャイアンツが好きだし。
文子 だから普通の人とも話ができるんだよね。
南 できるんだよ。オレはそういう話になったとき、トンチンカンなことを言ったって面白くないだろうから、黙って聞いてるっていう感じなんだけど。知ってるからね、赤瀬川さんは。車も自分では運転しなかったけど、好きだったみたいだし。
美子 南さんと文子さんにとっては、赤瀬川さんってずっとお父さん的な感じですよね。
南:お父さんっていうんでもないんだよね。
美子 お兄さんでもない。
文子 赤瀬川さんって、すごい子どもっぽいところがあるから、年はだいぶ上だけど。
南 同じ感じですね、どっちかっていうと。
文子 赤瀬川さんがすごかったのは、病気になっても冗談言ってたもんね。野球が好きじゃない、赤瀬川さん。脳溢血とガンをやったときにお見舞いに行ったら、王さんと長島さんの病気を両方やっちゃった(編:長嶋さんは脳梗塞)とかって、笑ってるわけよ。えーっと思って。1個でも大変なのに、両方やっちゃったのにそういう冗談言えるんだと思って。
美子 最後のころに書いてた原稿で、寝たきりみたいになったときに、社会との関係が絶たれたから、病院内で楽しみを見付けなければいけないって、ナゾナゾをやるんですね。「ストロベリーは何語?」「いちご」とか(笑)。何もできなくなっても、ナゾナゾとかってやって、それで楽しくやってらっしゃって、すごいなと。
南 赤瀬川さんは、子どものころのオネショのことをよく書いてるけど、オネショのことはやっぱり本人的にはものすごくつらかったんだよね。つらくないはずはないんで。つらかったんだけど、それを越してきたっていうのはあるだろうなとは思ってたんだけど。赤瀬川さんが亡くなったあとに、家族の人が話してるのを聞いてたら、オネショしまくりのときに、家族を笑わす子だったっていうんだよ。だから、それはすごくいいことだと思うし、それが赤瀬川さんの生き方だったんだよね。
美子 本当は自分のなかではつらかったんだけど…。
南:それはつらいけど、その自分も解放でき、家庭自体も明るくできるっていうことは、みんなを笑わせることだって、子どものときに気が付いたんだよね。それはすごいことだと思った。だから、赤瀬川さんの近くにいて、いろんなことを、特に何をどうしろとかって教えられたわけじゃないけど、そういう考え方が移ったのかもしれないですね。
文子 笑かすっていう。
南 うん。笑ってるという状態がいいっていう価値観だよね。実際に楽しいじゃないですか、笑っているときは。
美子 うちは笑いが足りないかもね。多分、私が重くしてるかもしれない。昭さんのほうが結構ヘラヘラしてるんじゃないかな。
将来のこと
美子 一緒になって、夫婦になって難しかったことっていうのは、何かありますか。
文子 他の夫婦は知らないけど、うちってあんまり将来のことをずっと話してこなかった夫婦なんで。
美子 話してこなかった。
文子 うん。普通だったら、きっと結婚したら子どもはどうするのかとか相談するんだと思うけど。
南 そうだね。子どものことだけだって、どういう学校で習わせるとか、どういう子どもにしたいとか。それがまず全然ないから。
文子 一切話したことがないでしょ。できないまんまきて、もうそろそろ70と60になって、この先どうするとかも全然話してないし。話してる?
美子 この先どうするっていうのは、例えばどういうことなんだろう。
文子 さっきお墓の話してたけど、お墓のこともそうだし。
末井 ボクは去年からずっとそういうことを考えてます。
美子 でも、うちもそんなお墓のこととかは。
末井 いや、自分のなかで考えてます。南さんが書いてたけど、人類縮小化計画(笑)。
美子 それかわいいよね。みんなちっちゃくなっちゃう。
末井 60か、70ぐらいになると、もう小さくなって。
美子 そうそう。最後赤ちゃんぐらいになるとかね。
末井 あれを読んで、もう切実に考えました。ボクは体がデカいから、介護になると嫌がられるだろうなって。
南 そうだね。
美子 すごい迷惑だよね。
末井 1m50cmぐらいになりたいなと思いますよ、今は。
南 一番最初に人類縮小化計画が出たのは、赤瀬川さんとオレたちで話してたときなんだけど。つまり、人口がものすごく増えたから、みんながちっちゃくなれば全体が大丈夫じゃないかっていう、本当に空想的なことで。介護の問題って、それは確かに言われりゃそうだなとは思うけど。
末井 毎日介護受けながら、またあの人かって介護士の人に思われるの嫌だなあ。あのデカいおじいちゃんって。
南 デカいおじいちゃん。顔も大きいし(笑)。
美子 頭も重い。
末井 そうなんないように何かしないと。やっぱりスポーツとかしないとダメなのかな。
美子 将来のことを考えないできたっていうのは、やっぱり今が面白いからとか、今面白いことをとにかく発見するということに夢中だったからかなあ。将来のことを考えると、思いわずらうみたいな。思いわずらうってことは、あんまりよくないんだろうけど、保険会社とかすごいじゃないですか。保険の勧誘って怖いじゃないですか。
末井 心配を商売のネタにしてる。
美子 不安っていうのが経済を動かすようになっていて、結構そういうところがあると思うんです。だから、不安とか、こうなったらどうなるかなみたいなことは、一切考えないみたいなことができればいいなと思うけど。
文子 「もしも」みたいなことは考えないね。もし病気になったらとか、もし仕事がこなくなったらとか、そういうことはあんまり考えない。心配してもしようがないことを心配して、それで悩んでも無意味だっていうことは考えりゃ分かるんだけど、それでもやっぱりどうなっちゃうんだろうこの先、みたいなことって誰でも考えるでしょ。でも、考えないよね。
南 そうだね。あとで大変なことになるかもしれないって、ずっと先の心配をこっちまで引き延ばしちゃったら、ずっと心配してなきゃなんないじゃないですか。
文子 先のことだもんね。
南 何かあったときは、そのときはそのときだから。なんとかなる(笑)。
末井 いいですね、力強い(笑)。
美子 うちの場合、そういうことも、どっちかというと私のほうが、ああじゃないの、こうじゃないのって、結構不安の種を言ってる。
末井 将来を、まず最初に全部不安にしちゃうんだよね。
美子 起こってないのに、どうしてそんなことを考えるのって。でも、それも気まぐれだから、いつもそう考えてるんじゃなく、例えば友だちのダンナさんが亡くなったっていうと、じゃあ、うちのが死んじゃったらどうしようとか。
文子 そう思うよね。最近冗談めいて、私に何か残しといてくんないと困るよねとか。でも、今はもう本も売れないから。
美子 印税は無理。
文子 そうそう。例えばご主人が作家で、その印税で奥さんが余生を暮らしていけるなんて、めったにないでしょ、今は。数人ぐらいしかいないでしょ。
末井 そうだろうね。
文子 末井さんだってそうしたいでしょ、美子ちゃんに。
末井 したい。ベストセラーにしたい。
美子 でも、無理だよ。
文子 だから、今のうちから、私は筆で何か書いてって前から言ってるんです、もう5年ぐらい前から。
末井 作品?
文子 そうそう。困ったときに売り飛ばすための作品を、元気なうちに書いとけって言ってて。
美子 1日1枚。
文子 あんまりいっぱい書くと、値下がりするから(笑)。
末井 いやいや、こっそり隠しといて。
文子 仙厓の絵とかいいじゃないですか。蕪村とか。ちょっとやりゃあ描けるから、描いてよって。そこまで言わなくとも、熊谷守一の水墨画みたいなのでいいからって。雨だれっていうのがあるんですけど。熊谷守一は知らないかな。
美子 抽象画みたいな?
南 雨だれをそのまま書いてるような。
文子 筆でね。それが掛け軸みたいになってるんだよね。だから、ああいうのでいいんだから、ちょっと書いといてよって、ふざけて言って。でも、そっちのほうの絵も描いてほしいんですよ。
美子 南さんの絵はすごいなと思いますね、本当に。
文子 ときどき、すごく力が抜けてて、気持ちのいい線だなとか思って。なるべく褒めるようにはしてるのね。男の子は褒めて育てないといけないから(笑)。
南 特にオレはね。
文子 「俺は褒められると育つよ」とか言うから、「この絵いいね」とか。こんなちっちゃい、嵐山さんの文章に付ける週刊朝日のイラストでも褒めちぎる(笑)。今、すごく太い鉛筆で書いたりしてて。それもなんかすごく柔らかくて、気持ちのいい線になってるから、「いいね、いいね」って。
南 あの鉛筆は、たまたま形が面白くて買ったんだよね。描いてみたら合ってたんだよ。だから、筆も自分に合う筆とか、紙とかあれば。でも、やんないと分かんないもんね。
文子 そろそろ始めてほしい。
南 そろそろ。分かりました(笑)。
南文子さんの化け猫からヒントを得て、神藏美子が短編映画「雪子の部屋」を作った。写真はそのときのスナップ。左はこの映画の主演・金子清文。
南伸坊 1947年6月、東京生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。第29回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。著書に『笑う写真』『ぼくのコドモ時間』(ちくま文庫)、『笑う茶碗』(第4回京都水無月大賞受賞、筑摩書房→ちくま文庫)、『本人遺産』(文藝春秋)など多数。
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