南さんたちのことで、いつまでも覚えていることがあります。
神藏美子と結婚して間もないころ、2人でバリ島へ行きました。そのとき偶然、南さん夫妻もバリにいたので、2人が泊まっているコテージに遊びに行くと、南さんが裸になって、背中に大きな椰子かなんかの葉っぱを乗せて、テラスにあるプールのふちを這っていました。
それを文子さんが写真に撮っていました。あとで聞いたら、亀になっていたそうです。亀は分かるけど、2人で何をやっているのかと。最初は仕事なのかなと思ったのですが、ただふざけているだけでした。変わった夫婦だなあと思いました。
下の写真は、今年南さんから貰った年賀状です。トランプ大統領になっているの...
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男と女
南さんたちのことで、いつまでも覚えていることがあります。
神藏美子と結婚して間もないころ、2人でバリ島へ行きました。そのとき偶然、南さん夫妻もバリにいたので、2人が泊まっているコテージに遊びに行くと、南さんが裸になって、背中に大きな椰子かなんかの葉っぱを乗せて、テラスにあるプールのふちを這っていました。
それを文子さんが写真に撮っていました。あとで聞いたら、亀になっていたそうです。亀は分かるけど、2人で何をやっているのかと。最初は仕事なのかなと思ったのですが、ただふざけているだけでした。変わった夫婦だなあと思いました。
下の写真は、今年南さんから貰った年賀状です。トランプ大統領になっているのは、もちろん南さん。それを撮ったのは文子さん。あのときの亀と同じです。
南さんは、俗に言う「顔マネ」(南さん曰く「本人術」)の名手で、誰にでもなれます。その写真を撮っているのも文子さんです。どのくらい本人になっているか、その一瞬をどれだけうまく捉えているかは、お2人共著の『本人遺産』という本をご覧になれば分かると思います。
『本人遺産』(著者:南伸坊 南文子、出版社:文藝春秋)
いつも夫婦で、ふざけたことばかりやっているそうですが、それが夫婦円満でいられる秘訣なのかもしれません。
「オレとサンマ」になってる
美子 最近出た『クロワッサン』見てたら、「最も捨てたいのは、夫!」って特集をやってまして(『クロワッサン』2017年1月10日号)。
末井 タイトルがきついよね。
文子 見ました、それ。
美子 あ、見ましたか。だから、うまくいってない夫婦が多いんじゃないかと思うんです。南さんたちみたいに、2人で面白いことを次々発見して、遊んでたり、ふざけたり、笑ったりとかしてるのはマレな夫婦じゃないかと。もともとは違う人間同士が一緒になるわけだから、ガタピシしてたところもあったと思うんです。それをうまく、お互いの個性が面白く反応し合うようにきっとやってきたんだろうなと思って、それはどんなことなのか教えてもらおうかと。
末井 南さんの本はいっぱいあるんですけど、その中から『狸の夫婦』と『おじいさんになったね』をテキストにしようと思ってるんです。
美子 『狸の夫婦』ってすごい面白いですね。南さんがサンマに集中するところ。文子さんに「シンちゃん、さっきから、サンマ、サンマ、サンマ、オレとサンマになってるよ、おひたしとか、おしんことかも食べてよ」って言われる。
文子 いろいろおかずがあるのに、好きなものばっかり集中していくから。
南 うまいなと思うと、そればっかりいっちゃうんです。
文子 うまいな、サンマ、サンマ、サンマ。そうすると、バランスが悪いじゃない。
美子 でも、サンマしか食べないわけじゃないでしょう。
文子 もちろん。それ南と同じ言い方。最終的には食べるんだからいいじゃないかって言うんだけど。最近野菜から食べるといいとか言うじゃないですか。血糖値を緩やかに上げるために、サラダとかおひたしとか、そういうのから食べて欲しいのに、いっつもそういうのは最後になるわけ。
南 大丈夫なときもあるんだよ。特にここにいきたいっていうのがないときは、ちゃんと野菜からいけるわけ。たまにすごく好きなものが出てきちゃったりすると、その前に野菜からねって言われてるのに、うんうんって言いながらそっちにいっちゃう(笑)。
美子 文子さんが南さんを観察しているところも面白い。
文子 観察っていうか、横で食べてるからね(笑)。
カエルの探索
末井 カエルの声を探索に行くのも面白かった。家がたて込んでいて道路もアスファルトなのに、自宅のベランダにカエルの合唱が聞こえてくるから、2人でそのカエルたちを探しに行く話。
南 そうそう、カエルの声が聞こえてきたんだ。
末井 それで文子さんが1軒の家を突き止めるんですけど、その家には畳2枚分ぐらいの庭しかないわけですよね。その小さな庭が、カエルの合唱で田んぼ2つ分ぐらいに思わせる。路地の奥は思わぬ空間のゆがみがあるんじゃないかって。最後、公園にカエルが1匹いたところで終わってるじゃないですか。
南 いたんだっけ。
末井 街灯の下にカエルがいて、そこでプツッと終わってるんですよ。すごい謎めいていて。
文子 謎でもなんでもないよ(笑)。
南 田んぼとか池とかあるなら別だけど、住宅街でカエルが鳴いてるってヘンな感じするじゃない。必ず同じところから聞こえてくるんで、そこに行ってみたっていう話を書いたんだよね。
末井 それで、カエルはいたんですか? それすごい知りたくて。
南 池があるんじゃないのかな。
末井 家の中に?
南 家の中には(笑)。あそこはいまでもいるね。
文子 うん。たまに春先に出てきて、夜歩いてると見たりする。
南 日比谷公園は池があるから、春先行くとカエルがいるんですよ。冬眠から覚めたばっかりなんで、ゆっくり歩いてるの。
文子 ふんづけそうになっちゃう。
南 手で触るとすごく嫌がるんだ。「やめてくださいよ」っていう感じ(笑)。
美子 カエルって多分、保身のために岩になる術があるというか。全く動かなくなって。
末井 うちにいたんです、デカイのが。
美子 猫が気付いたんですけど、動くとガブッとやられるからジーッとしてる。猫は岩だったのかなと思って行っちゃう。
南 猫は動かないと分かんないんだよね。
美子 そうみたい。それで猫がいなくなるとピョンピョンって。でも、そうやって2人で面白いことをいつも見付けてっていうのが素敵だなと思うんですけど。
ナベゾの遺伝子
末井 観察者ですね、2人は。
南 友だちの中ではナベゾ(観察の人、イラストレーターの渡辺和博さん。マル金、マルビの『金魂巻』が有名。2007年に肝臓がんのため、56歳で死去。南さんとは『ガロ』の編集部で一緒だった)に一番近い。やっぱり俺よりも文ちゃんのほうがナベゾに近いんだよね。
文子 野次馬なんでしょ。
南 野次馬だし、わりとバランスも取れてるんだよね。
美子 それって、文子さんに初めて会ったときに、ナベゾに近いぞと思ったんですか。
南 全然そんなことは思ったことない。
美子 じゃあ、ナベゾに育てちゃったんじゃないんですか、南さんが。
南 可能性はあるね。
美子 自分がウマの合うナベゾさんに。ナベゾさんとは、結婚式も一緒にやったぐらいですもんね。『ガロ』で何年ぐらい一緒でした?
南 5年ぐらいじゃないかな。
美子 ウマの合う話相手がいて、なんとなくその感じに文子さんの素質が合って。
南 最近になって、なんだかんだナベゾに似てるなってときどき言ったりもする。ナベゾ死んじゃってから、ニュースとかでヘンなのがあるじゃない、ナベゾだったら喜ぶなっていう感じのやつ。それが大体同じような反応なんだよね。
美子 たとえばどんなニュース?
南 ちょっといい犯罪みたいな(笑)。
美子 文子さんの発想って面白いですよね。
南 そうそう。俺が書いてるのも、この人が何か言って、面白いなと思ったことを書くっていうのがわりと多いからね。いつも自分で取材に行かないで、うちにいる人のことを書いてる。
南伸坊:1947年6月、東京生まれ。イラストレーター、装丁デザイナー、エッセイスト。第29回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。著書に『笑う写真』『ぼくのコドモ時間』(ちくま文庫)、『笑う茶碗』(第4回京都水無月大賞受賞、筑摩書房→ちくま文庫)、『本人遺産』(文藝春秋)など多数。
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男と女